2007年04月24日(火)
OCEANS 6月号 連載#15 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
茶革の“粋”
骨太な茶革のブリーフがスーツ姿に深みを与えてくれる
赤峰氏が着ているのは、グレーのキッドモヘア素材のダブルブレストスーツ。そして、氏が携えているのは、25年ほど前にミラノにて購入したヴァレクストラのブリーフケースだ。素材はチンギアーレ。丈夫であるがゆえに、長く使い続けることができ、茶革が見事な味わいに変化している。氏曰く「ヴァレクレストラはブランドでありながらこれ見よがしにならない、粋なブランド。職人を大事にしているからこそ、優れた革製品が作られている。機能性のためのデザインは飽きることがなく、初めは硬かったチンギアーレも使い込むうちに柔らかくなってきた。イタリアでも、イギリスでも、このブリーフケースを携えていると、どこのものか?と尋ねられることが多い。それは革が魅力的に映ることにほかならない。ヴァレクレストラだと答えると、皆、納得する」。
今の世の中は、時間に追われている。利便性ばかりが求められ、何事も即物的である気がしてならない。それはファッションについても然り。しかし、そうしたマーケティング主導で作られたモノには魅力を感じられるものが少ない。イタリアでは「(注1)ファット ア マーノ」という言葉が重んじられる。職人の手作りによるモノは完成までに長き時間を要し、そして時間をかけた分だけ魅力を備えていく。私はブランドの名前にはこだわらないし、ブランド名があからさまなのは好まない。しかし、職人を育て、大事にし続けているブランドを選ぶのは、ゆったりとした時間の中で良質なモノを作り上げ、必然的にクオリティが高いからだ。特に革製品は、それがことさらである。
(注2)ヴァレクストラのブリーフケースはそうした理由で選び、ミラノの店で購入して以来、25年ほど使い続けている。デザインありきではなく目的に適ったシンプルで飽きのこないもので、素材の(注3)チンギアーレはとても丈夫。使い始めは硬いが、使うたびに柔らかくなり、しっくりと手になじむ。それが心地よい。やや明るめの茶を選ぶのは、黒よりも味が出やすく、茶の色合いが濃くなるにつれ、艶が増して美しい風合いとなるから。キズですら、味となり魅力のひとつとなる。(注4)スマイソンのパスポートケース、ティファニーのアンティーク時計、(注5)チェレリーニのコインケースも使うほどに味わい深くなる茶革がいい。まだ幾分、味が足りないが、今よりも来年、そして5年後、10年後の色合いが楽しみだ。
長く愛用して味の出た茶革の小物を身につけていると、揺ぎない芯が自分に一本通っているようにすら思える。そして、きっとそれは男らしい趣味のよさでもあるのだ。多少、値が張ったとしても結果的に得をするということを思えば、その価値以上の価値を見出すことができるはず。
最後に着こなしについて触れよう。革小物は色を揃えるのが基本だ。特に鞄と靴。財布や名刺入れ、時計のベルトも揃っていた方がスマートに見える。黒であれば黒で統一すること。それは難しくない。茶であればもちろん茶で統一を。その際、濃淡までも合わせようとする向きもあるが、私は気にしない。揃いすぎているのも不自然で、使っている年月に応じて色合いが変わるのだから。
(注1) 「ファット ア マーノ」
「fatto a mano」はイタリア語で手作りという意。職人が丁寧に一針一針縫い上げた革製品は、丈夫で傷んでも直しが利き、長く愛用できる。
(注2) 「ヴァレクストラ」
1937年、ミラノにて創業した老舗。クオリティを重視した革製品に定評がある。日本では銀座に路面店があり、多数のアイテムを揃える。
(注3) 「チンギアーレ」
イタリア語でイノシシ革の意。古くから高級素材として用いられ、鞄や財布のほか、グローブにも使われる。丈夫で、キズつきにくいことが特性。
(注4) 「スマイソン」
創業は1887年。英国王室御用達の老舗で、ステーショナリーを中心として扱う。ロンドンではニューボンドストリートにショップを構える。赤峰氏はパスポートケースのほか、特注したネーム入りの便箋も愛用。
(注5) 「チェレリーニ」
1956年にフィレンツェにて創業以来、クオリティ重視の姿勢を貫き、熟練の職人が丹念に革製品を作り上げ、各界の名士を顧客に抱える。
経年変化が魅力となる茶革の鞄を愛用する、英国紳士の粋
赤峰氏所蔵の本「BRITISH POLITICAL」より。写真の人物はチャーチル時代の内閣で活躍した政治家、HUGH DALTON。デスクの上に置かれているブリーフケースにご注目を。何年も使い込んだのであろう、深い味わいに変化している茶革が見て取れる。まるで、これまで歩んできた自分の歴史が刻み込まれているかのようだ。特に英国紳士にはモノを長く使い続ける精神が根付く。氏はそうした姿勢をとても粋と感じる。
金具を修理し、寿命を延ばす。
そして、永く愛用し続ける!
少々乱暴に扱っても革はへこたれないが、25年も使っていたら、金具の部分が壊れてしまったそう。赤峰氏は靴の修理で知られるユニオンワークスに依頼し、壊れた金具を取り替えた。「壊れたら修理して使う。使い捨てはしない。この鞄はまだまだ現役だ。今後、この革はもっといい色に変化していくだろう。」
今後の革の味わいの変化が
楽しみなパスポートケース
ロンドンにあるスマイソンで5年ほど前に購入したピッグレザーのパスポートケース。こちらは海外出張のときに使用。同じものを長く使っていたが、ミラノからフィレンツェに向かう列車の中で盗難にあってしまったとのこと。お金よりも、味の出ていたパスポートケースを失ったことが残念と語る。
腕時計よりも魅力を感じるのは
味が出ている茶革のベルト
ステンレスベルトの腕時計は好まない赤峰氏。このティファニーの腕時計は10年ほど前に、ニューヨークのアンティークショップで見つけて購入。革に汗が染み込んで、部分的に色が濃くなる。それは使い続けていれば自然なこと。そういう変化を楽しむことに、革の醍醐味があるのだ。
海外出張時に便利な
仕分けのできるコインケース
フィレンツェのチェリーニで購入。グリーン、レッド、ベーシュ、ネイビー、それぞれのジッパーごとに4室に分かれているので、ユーロ、ポンド、ドル、円の小銭を仕分けられるのが重宝する。普段、赤峰氏は財布を使わないそう。札やカードは特大のクリップで挟んで使用している。
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今月の赤峰ワードローブ [OCEANS掲載記事]
Y.アカミネのコードストライプのサマージャケット
赤峰氏のプライベートブランド、Y.アカミネの2007年春夏コレクションにラインナップされているジャケット。かつてロンドンで購入したジャケットを今日的に復刻したもの。素材はイタリアのファブリックメーカー、フェルラ社によるもので麻×シルクの混紡。ネイビーのコードストライプが特徴的。デザインは2ボタン、センターベント、ポケットはチェンジポケット付きのスラントで英国調。白シャツにグレーパンツでリゾート風のこなしがおすすめ。ジャケットは日本橋三越本店、他にて展開
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2007年04月06日(金)
来る5月25日(土)、26日(日)プレタスーツオーダー会を開催します [MEN'S EX 掲載記事]
メンズEx 5月号(4月6日付け発売)にてご紹介させて頂いています「Akamine Royal Line 読者限定オーダー会」をAKAMINE BLOGご高覧の皆様にもお届けさせていただきます!
赤峰さんが考えるリアルクローズのスーツです
サイズは44〜52、ボディはドロップ6と7のサイズサンプルを用意しています。オーダー価格は、スーツ15万8000円〜。裾上げと本切羽は無料です。写真のスーツは3シーズン着用できるハリソンズの肉厚トロピカルウールを使用。スーツ16万950円(オーダー価格)、シャツ(参考商品)、タイ1万500円。以上(問)インコントロ tel.03-3447-1891
アカミネ ロイヤルライン
AKAMINE ROYAL LINE
読者限定オーダースーツ
昨年の秋、赤峰幸生さんとパリの生地展「プルミエール・ヴィジョン」に行ったときのこと。赤峰さんは日本からヴィンテージの生地見本を持参したり、メーカー各社にアーカイブの資料を持参してもらって、それぞれが得意とする生地を復刻してもらっていました。感心すると同時に「かなりオーダー入れてるなぁ」と不思議に思っていたのですが、今回のコレクションを見て納得。赤峰さんの集大成といえる、リアルクローズを表現した「アカミネ ロイヤルライン」を立ち上げたのです。どれもこれも、打ち込みのしっかりしたヘビーウエイトの生地を使用していて、赤峰さんテイスト全開。今回特別に、秋冬からの展開に先がけて、読者限定のオーダー会を2日間設けてもらいました。当日は、ヴィンテージの復刻生地を中心に、デッドストックの着分も用意。さらに、オーダされたかた全員に、「アカミネ ロイヤルライン」のタイをプレゼントしてくれるそうです。ご応募を。
<応募方法>
まずは、ハガキでMEN'S EX編集部までご応募ください
5月25日(金)13時〜18時、26日(土)13時〜17時に開催される読者限定25名のオーダー会に参加ご希望のかたは、ハガキに住所、氏名、年齢、職業、日中連絡が取れる電話番号、希望の日時を明記の上、〒102-8187 東京都千代田区九段北4-2-29 世界文化社 MEN'S EX編集部「赤峰さんオーダー会係」までご応募ください。5月2日(水)当日の消印有効です。※5月3日(木)以降の消印分については、直接インコントロオフィス宛(〒108-0071 東京都港区白金台5-5-7ガーデンコート白金台301)にご郵便下さい。応募者多数の場合は抽選とし、当選者のみにご連絡いたします。ご応募いただいた個人情報は抽選・当選のご連絡のために使用させていただきます。この目的以外で許可なく第三者への個人情報の提供はいたしません。お送りいただいたハガキは、抽選にもれたかたのものは速やかに廃棄し、当選したかたのものはご連絡後、弊社が責任をもって適切な方法で廃棄いたします。
■特典1 5月25日(金)、26日(土)の2日間、読者限定プレタスーツオーダー会を開催!
5月25日(金)13時〜18時、26日(土)13時〜17時の2日間、赤峰さんのオフィス「インコントロ」(tel:03-3447-1891 住所:港区白金台5-5-7ガーデンコート白金台301)にて、読者限定25名のオーダー会を開催します。
地図は[ 印刷用地図 ]をご参照ください。
■特典2 赤峰さんが別注したヴィンテージの復刻生地を用意しました!
ヘビーウエイトの英国生地が目白押し!
生地展「ミラノ・ウニカ」や「プルミエール・ヴィジョン」で、トレンドを気にせず、男服の本質である色柄でヴィンテージの生地を復刻した赤峰さんこだわりのオリジナル生地。さらに、ホンモノのヴィンテージ生地も用意。
■特典3 オーダーされたかた全員にアカミネ ロイヤルラインのタイをプレゼント!
柄から起こしたオリジナル生地もアリ!
スーツ・ジャケット・コートをオーダーされたかたには、1着につきアカミネ ロイヤルラインのタイ(1万500円)を1本プレゼントいたします。赤峰さんが生地から別注したこだわりの逸品で、なかには柄から起こしたものも!
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MEN'S EX 5月号 菊池武夫と赤峰幸生の Be Buffalo Forever! vol.12 [MEN'S EX 掲載記事]
菊池武夫さんと赤峰幸生さん。
ファッション界の2人の巨匠が毎回テーマを決め、それに基づいてファッションを披露し語り合う、夢の対談連載。
「今月のテーマ」
スプリングコートの着こなし方
身も心も軽やかになる春ですが、日によってはまだまだ肌寒いこともしばしば。そんな時期に重宝するのが、スプリングコートです。そもそもコート好きを自任するおふたりは、はたしてこのアイテムをどう着こなすのか?ダンディズムや季節感をテーマに、対談はまたしても痛快に進んでいきました。
■(写真右)赤峰幸生氏
・ベルソールの折り畳みサングラス(マックィーンモデル)
・プリンチペのボタンダウンシャツ
・アカミネロイヤルラインのタイ
・リヴェラーノ&リヴェラーノのオーダースーツ
・アカミネロイヤルラインのポプリン地のオリジナルコート
・ジョージ・クレバリーのストレートチップ
■(写真左)菊池武夫氏
・ボルサリーノの帽子
・ルイ・ヴィトンのシルクシフォンのストール
・40カラッツ&525のリネンコート
・スウェイン・アドニー・ブリッグのステッキ
・リーバイス505のホワイトジーンズ
・アディダスのスニーカー(アリ・クラシック)
今回の撮影の舞台となったのは、銀座銀杏並木通りに面したレストラン「セラン」。春間近とはいえ、日が暮れてくるとまだまだ肌寒いようで、お二人ともコートを「ビシビシに締めて」会話に興じていました。それにしても、絵になります(笑)。
■コートほど男を感じるものはない
菊池 そもそも僕はね、コートが凄く好きなんですよ。重厚なものもあれば、ペラペラのシャツみたいなものもあって、丈ひとつとってもその長さはいろいろでしょ。だから、着る愉しみがあるんですよね。時期にしたって、一般的には冬の衣料と思われがちだけど、今回のスプリングコートのように、春先に颯爽と羽織って歩くタイプだってあるし、実際に僕は梅雨の時期まで着ることがありますからね。雨の中を傘をささずにコートを着て、濡れながら歩くんですよ。
赤峰 ご多分に漏れず僕もコートは好きで、それこそトレンチに始まって、いろいろなバリエーションを持っていますよ。特にこの時期は、プレーンなタイプのコートをダラッと着ている感じがピッタリですよね。やっぱりコートほど男を感じるものって僕はないなと思っていて、まさに菊池先生のおっしゃるように、多少の雨など気にしないでコートを濡らしながら大股で歩いている姿というのは、一番カッコイイなと思いますね。
菊池 パリでよく見かけた光景なんですけど、雨の日に傘をささずにコートを着て、雨が入らないようにパイプを下向きにくわえながら歩いてるおじさんがいるんですよ。シビれましたね。コートだって別にパリッとしたものを着ているわけじゃないんですけど、こういう何気ない仕種がサマになるんですから、やっぱり文化が違うなって思いますよ。
赤峰 そうですよね。(注1)アルベルト・ソルディがスプリングコートを羽織っている姿には、なんだか大人の魅力といったものがありましたよ。フレッド・アステア、ケーリー・グラント、(注2)スティーブ・マックィーンなんかもそうです。昔のアクアスキュータムのアクアファイブや、ロンドンフォグのテロッとした風合いのコートとかを何気なく着ているのを見ると、とにかく男が感じられます。
菊池 着古して、身体によく馴染んだ感じがカッコイイんですよね。刑事コロンボなんかはまさにそう。あの汚く着た雰囲気はすごく好きです。
赤峰 ヨレちゃうともう古いと思うんじゃなくて、ヨレてやっとコートらしくなってきたって感覚ですよね。だから新品を着るのは少し恥ずかしい。
菊池 そういう意味で、赤峰さんもよくコートが似合いますよね。
赤峰 ありがとうございます(笑)。僕が思うに、コートというのは95丈、100丈、110丈、だいたいこの3つがレングスの基本だと思うんですよ。あとはウエストを絞っているか、ストレートかといった具合。スプリングコートの場合、いくらサラッと着るとはいっても、やはりそこそこ台襟が高くて、襟に存在感がないといけません。チビ襟というのはちょっとね。ラインも、僕が着ているようにウエストがシェイプされているのだったり、あるいはAラインのコートなんてのもカッコいいと思います。
菊池 あぁ、いいですね。僕は結構Aラインが気分かな。なんといってもシルエットがキレイですよ。
赤峰 Aラインだと、振り返ったときの蹴回しが大きいからフレアがついて、そこに男のエレガンスが感じられるんですよ。雨のときは前をビシビシに締めるんだけど、ラインは優雅っていうのがなんともいえずいいですよね。映画「暗殺の森」(ベルナルド・ベルトルッチ監督、1970年)の中で、(注3)ジャン=ルイ・トランティニャンが着ていたのもそういった風情があって、すごくカッコよかったですね。それと、(注4)ジャック・タチ。丈が短くて少しAラインのコートに、これまたえらく短いパンツを合わせ、足元にはアーガイルの靴下が覗いている。それはそれでフレンチの粋がありました。
■季節感を意識することって凄く重要ですよね
赤峰 ことヨーロッパにおいてスプリングコートというのは、イヤーラウンドの中のベースのコートという感じがありますよね。
菊池 そうですね。向こうはライナーの取り外しって常識みたいだから、冬はスプリングコートの裏にウールとかキルトのライナーをつけて、春になるとハズしてしまう。そんな着回しをしていますよ。
赤峰 最近でこそよく見かけるようになりましたが、もともとヨーロッパに中綿のコートとか、ダウンのコートってあまり存在しなかった。寒ければウールのオーバーコートを着るし、暖かければスプリングの一重のコートを着る。そういう使い分けをしていましたよね。
菊池 現在は地球温暖化などいろいろな問題がありますが、特に都市部にはシーズンがありません。食事でも生活でも、なんでも旬ってあるじゃないですか。そういった季節感を意識することって凄く重要ですよね。これは洋服も同じで、季節をきちんと意識して着ることってとても大切なことだと思います。昔はこの日を過ぎたらこれを着るってことがちゃんと決まってましたもんね。
赤峰 本当にそのとおりです。イギリスの昔のスプリングコートなんかは、アームホールのカマのところにループが両方ついていて、雨でずぶ濡れになったら、ハンガーの両肩に引っ掛けて乾かすようになっているんですね。現代と違って、自然とか、季節にきちんと向き合っていたことが、ここからもよくわかります。
M.E.今回はお二人ともオリジナルを着てご登場いただきましたが、それぞれのポイントなどを聞かせていただけますでしょうか。
菊池 僕はどうしても本筋からハズして物事を考えるタイプだから、あえてリネン素材のコートにしました。シワになりやすいけど、それがまたいい表情になるかなと思って。キレイにしているとなんだか落ち着かないんですよ(笑)。着こなしはビシッとしていても、どこかダラダラした感じが欲しいですね、僕の場合。
赤峰 早くも雰囲気が出てきていますよね。肩もずいぶんとナローでカッコイイです。
菊池 ありがとうございます。僕自身、それが凄く好きでね。スーツの上にコートを着たとき、肩がぐーんと平らになるのがイヤなんですよ。
赤峰 ジャン・ギャバンのトレンチ姿も肩がちょっとドロップ気味になっていてえらくシブい。
菊池 そう、あれがいいんですよ。
赤峰 確かに麻のコートは本流ではなく、やはりクラスなもの。いわゆる機能というよりは、これを着ることによる遊び心の表現ですよね。その点、僕のは逆で、ミリタリーの生地を使ったものです。ブリティッシュミラレーンという、バーブァーなども使っている生地屋の、リアルポプリンと呼ばれる高密度の生地を使い、防水性も高い作り。モデルとしては、'60年代後半から'70年代にかけて、モッズの時代に出てくるようなショートカットのスタイルです。ハ刺しも全部入れて、完全にテーラードな作りをしています。ただ、まだ新品なのでこれからもっといじめ抜いてピリを出したいですね。
菊池 これを着古したら凄くいい味わいになると思いますよ。僕だったらこのコートには、ザクッとしたコットンの、ローゲージの首が抜けているようなセーターを着て、緩めのパンツをはいて、といった感じで合わせてみたいですね。意外と構築的なイメージなので、バランスを崩して着ると面白いんじゃないかなって。
赤峰 なるほど、さすがは菊池先生。では、僕が先生のコートを着るとしたら、そうですね、確か色違いでネイビーもあったと思いますが、そっちを着て、中にコバルトブルーか、ロイヤルブルーのラコステの長袖のポロシャツを合わせ、ネイビーとのグラデーションを見せつつ、リーバイスのホワイトコーデュロイのトラウザースにスニーカーというのはいかがでしょう。春の気分にしっくりくるのでは。
菊池 いや〜、いいですねぇ。赤峰先生、お見事です!
(注1) 「アルベルト・ソルディ」(右)
1920年イタリア生まれ。映画俳優として生涯で約150本の映画に出演し、'95年にはその功績が讃えられ、ベネツィア映画祭において特別功労賞を受賞。'03年没。
(注2) 「スティーブ・マックィーン」
1930年アメリカ生まれ。'56年に「傷だらけの栄光」で映画デビュー。一躍人気スターの仲間入りを果たし、以後アクション映画を中心に数々の作品に出演する。'80年没。
(注3) 「ジャン=ルイ・トランティニャン」
1930年フランス生まれ。'55年に「空と海の間に」で映画デビュー。'66年の「男と女」で一躍有名になり、今やフランス映画界を代表する名優としてその名を知られる。
(注4) 「ジャック・タチ」
1903年フランス生まれ。映画監督兼俳優。'53年、「僕の伯父さんの休暇」を発表。主人公ユロ氏の風変わりなキャラクターとともに世界中で大ヒットを記録。'82年没。
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菊池さん的コートの着こなしテク [MEN'S EX 掲載記事]
ウイングカラーをこんな風に着ます
フォーマルなウィングカラーシャツの胸元を開け、スカーフとともに合わせる上級ワザ。こうした遊び心は菊池先生ならではといえるでしょう。是非見習いたいものです。
白のベストが気分だそうです
コートの下には、白のベストを合わせています。ウイングカラーシャツにしてもそうですが、カジュアルなものにフォーマルなものをミックスするのが、菊池さんの気分とのこと。
競馬観戦用のステッキで休憩
実はこれ、競馬観戦用のステッキです。通常の使用のほかに、ちょっと疲れたな、というときにはこうして椅子代わりになるので重宝します。ただし、コンクリートの上では×。
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赤峰さん的コートの着こなしテク [MEN'S EX 掲載記事]
BDの襟ボタンはハズすのが赤峰流
ビビッドなピンクのシャツを選ぶあたりもサスガですが、故ジャンニ・アニエッリよろしく、BDシャツの襟ボタンをわざとはずしてタイドアップしているあたりはサスガです。
ウエストのシェイプがなんとも絶妙です
アカミネロイヤルラインのオリジナルコート。腰にかけて緩やかにシェイプされたシルエットは、'60年代後半から'70年代にかけて、モッズのテイストを汲んだもの。95cm丈です。
ダブルブレストの前を留めて風格を
ダブルブレステッドのフロントを留めて着こなすのも赤峰さん流。オーソドックスなアイテムを選びつつこなしでニュアンスをつけるのは、赤峰さんが最も得意とするところです。
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私はコレを大定番とします!あの人が選んだ定番リストが見たい [MEN'S EX 掲載記事]
星の数ほどある名ブランドの名作の中で、あなたにとっての大定番品とは?
ここに目利きが選んだ定番品リストを、モノの背景やエピソードを交えながら一挙に大公開します!
【インコントロ代表/赤峰幸生 定番リスト】
■ジョン スメドレー ハイゲージウールニット
10枚以上はもっています
「ちょっとしたときの羽織りものとして年間を通して使える堅牢なカーディガン。ネイビー、茶、グレイなどが基本でしょう」
■モンブラン マイスターシュテュック
とても丈夫でクッション性も抜群です
「筆圧の強い自分の文字に耐えられる唯一のペンです。既に25年以上は愛用していて、これからも変わらず使い続けます」
■ドレイクス タイ
色がベーシックなので気にいっています
「ベーシックな色が豊富なところがいい。ドット柄や千鳥、レジメンタルなど時代を超えて使っていける数少ないタイです」
■シャルベ チーフ
なんとも微妙な色合いが見事です。
「1950年〜'60年代の水玉やプリントものなど、基本の柄がいまだに存在していて、その色合いがまたとても気に入っています。」
■ハミルトン ベンチュラ
外に見せない状態で手首にリストさせる
「ヴィンテージモデルを中心に、もう30年以上愛用しています。時計は基本的に小ぶりのモノがエレガントで好みです」
■ペルソール 折り畳みメガネ
ヨーロッパにおけるサングラスの原点
「ヨーロッパのサングラスの原点です。なかでも、'60年代のモデルはコーディネイトがしやすいので、数タイプ所有しています」
■シャルベ シャツ
質の高いレギュラーなシャツです
「15年前にオーダーしたのがはじまり。シャルベのシャツはフィット感が抜群。台襟は高くもなく低くもなく、とても絶妙です」
■エドウィン・ウッドハウス スーツ生地
10年着られる、くたびれない生地
「春夏秋冬問わず、基本的にスーツ生地は保形性に優れた、ヘビーウエイトなものが好みなので、ここの生地よく使います」
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2007年03月29日(木)
エスクァイア日本版「LAST(vol.9)」5月号臨時増刊(男の靴雑誌)“Akamine's choice” [LAST掲載記事]
「LAST vol.8」に引き続き、vol.9にて、「達人たちが選ぶファブリックと靴」の中で、Akamine's choiceとして、ご紹介させていただきました。是非ご一読下さい。
Fabric & Shoes
達人たちが選ぶ、ファブリックと靴。
[春夏編]
モヘア、シャンブレー、またはコットン、リネン。
色柄以上に、その素材感が重要な春夏のスーツファブリック。
達人たちが考える、爽快かつエレガントな
素材と靴のマリアージュ。
Akamine's choice 1
「ウィリアムハルステッドのウールモヘア、ピンヘッド風ブラウンシャンブレー」×「米国調のコードヴァン・オックスフォード」
ロンドンのサヴィルロウのテーラーが好んで使う3プライ、つまり三つ縒りで、英国生地ならではのハリ感に納得しています。10年以上前から、この生地のシングルブレスト3つ釦段返りとダブルブレストのスーツを愛用しています。海外出張の多い私にとっては、プリーツが取れにくく非常に重宝している素材です。またセミセレモニーやパーティなどにも対応する、格式のある生地でもあるといえます。
今年の気分は、白のナローなシャツに黒無地のシルクタイ、そして靴は'60年代アメリカの代表モデルというべき、コードヴァンの質感が魅力的なフローシャイムのコブラヴァンプとのコーディネイトです。ただ現在はコードヴァンのヴァンプ自体が希少なので、コードヴァンならキャップトゥやプレーントゥなどもいいでしょう。パンツは5cm幅のダブル、裾幅は19.5〜20cmぐらいでシャープなイメージに。できれば針抜きの黒のシルクホーズと合わせて、ドレスイメージで装いたいものです(談)。
【BROOKS BROTHERS】
このブルックス ブラザーズネームのオールデン製コードヴァンシューズは、両社の長い信頼関係があってこそ販売されている傑作。デザインもラストもオリジナルで、他では手に入らない。¥89,250(ブルックス ブラザーズ/ブルックス ブラザーズ ジャパン tel.03-3403-4990)
Akamine's choice 2
「アルスターウィバース社のスペンスブライソン、リネン」×「コンビシューズ」
アイリッシュリネンの本家本元、北アイルランドのアルスターウィバース社の生地ブランドであるスペンスブライソンのリネンは、夏に不可欠の素材です。麻のカリッとした、密度の高い生地は見事の一言です。無論、スーツにするなら白蝶貝釦使用の6つ釦ダブルブレストです。
合わせるのは革とキャンバスがコンビになったフルブローグタイプが今の気分です。ハリのある麻の味とキャンバスを合わせるのです。こんな夏のアイリッシュリネンのスーツにコンビシューズというのは、18世紀から継承して愛されている伊達男のスタイルです。イタリアの'60年代の映画監督であり、俳優としても名を馳せた、私の大好きなヴィットリオ・デ・シーカをイメージして着こなしたいですね。昔はコンビシューズの布部分に白墨を何度も塗り込んで、履き込んだヴィンテージ風の味を出したものです。映画「ベニスに死す」のボガードみたく、パナマ帽を被るのもいい。粋や洒落という言葉が似合う装いです(談)。
【BROOKS BROTHERS】
ベージュと茶のナチュラルなコンビネーションが、エレガントなリゾートスタイルを喚起させる。洗練感溢れる表情を持つ、ピール社コレクションの英国製フルブローグ。¥68,250(ブルックス ブラザーズ/ブルックス ブラザーズ ジャパン tel.03-3403-4990)
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2007年03月24日(土)
OCEANS 5月号 連載#14 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
白シャツの“粋”
白のシャツが粋に映えるのはグレースーツとのハーモニー
何気ないが何気なくない、そんな目標となる白シャツのこなし方。シャツは本文中にもあるように、パリのヴァンドーム広場にあるダンヒルのシャツバーにて購入。ヘビーウェイトのボブリンで、ドレッシーすぎないテイストを醸し出す。ダブルブレストのグレースーツは、マエストロ赤峰氏自身のブランド、アカミネ ロイヤルラインのもの。英国を代表する生地メーカー、ドーメルのハウンドトゥースを使用している。無彩色でのエレガントな着こなしだ。
無造作に見えることが、白シャツをこなす、見よがし方
タイを外し、ダブルカフスを開けて、袖をまくり上げてこなす。こんなラフな雰囲気も白シャツのエレガンスが際立つ。上質な生地であるがゆえ、シワ感が美しい。ポイントになっているスクエアのカフスリンクはオニキス。フランス製で、ブランド名は不明。
シャツ一枚だけを選ぶのならば、それは白に限るだろう。日本では白無地のシャツはビジネス用と狭義で捉えられがちだ。そして、平凡でツマラナイというようなネガティブなイメージを持つ人も多いのではないか。しかし、実は白シャツをエレガントにこなすことこそ、お洒落の究極だと思うのである。それは(注1)ケーリー・グラントしかり、(注2)ハンフリー・ボガートしかり。彼らの過去の着こなしは、白シャツの魅力を今に伝えてくれるよきお手本だ。白のシャツは過度に主張することなく、着ている本人を引き立てる。だから彼らが格好よく映えるのだ。
では、どのような白のシャツを選べばよいのか?日本人の傾向としては、ブランドネームに踊らされるキライがある。しかし、ブランドは選択の“道標”にはなるが、本質的なタグネームに捉われず、モノとしての良し悪しを見極める目を養いたい。白のシャツはその題材としては、もっともハードルが高いアイテムだろう。私の場合の条件は、素材が(注3)ヘビーウェイトの上質なコットンであることだ。それは長く着られ、(注4)着れば着るほどに生地が体になじみ、より魅力的な風合いへと変化していくからである。ハンドの袖付けがどうだのといった、ウンチクのためのディテールには惑わされないことだ。グレーのダブルブレストスーツの中に着ているのは、パリのヴァンドーム広場にある(注5)ダンヒルのショップで6年ほど前に買い求めたシャツであるが、生地はコットンのヘビーウェイトな(注6)ポプリン。何気ないが、実はカラーが切り替えてあるダブルカフスということで、実は何気なくないというのがミソ。質のいい生地はシワ感さえもエレガントに映える。この先、クタクタになって擦り切れても、それがよい味になる。スーツに合わせる白のシャツ。ということだけでなく、これからの季節には当然、シャツ一枚だけで出歩く“シャツが主役”のシーンも増える。そうしたときに、白のシャツ一枚でサマになる着こなしこそ、究極だ。
最後に、コットンのシャツは洗いざらしもいいのだが、私はアイロンをかけることが多い。それはホテルのシーツのようにパリッとした肌触りが心地よいからだ。そして着たシワ感が、ナチュラルで粋に見える。
(注1) 「ケーリー・グラント」
1904年イギリス生まれのアメリカ人俳優。代表作は「北北西に進路を取れ」。スクリーンにおける洒脱な着こなしは、赤峰氏のイメージソースになっている。
(注2) 「ハンフリー・ボガート」
1899年生まれ、ニューヨーク出身の俳優。愛称はボギー。ヘビースモーカーとして知られ、ハットを被り、トレンチコートの襟を立て、タバコをくゆらせる姿が代名詞的。赤峰氏も認める、ハードボイルドな男の格好よさを体現している。
(注3) 「ヘビーウェイト」
糸の打ち込み本数が多く、地厚な生地。そうした目がしっかりと詰まっている生地を赤峰氏は好む。
(注4) 「着れば着るほど」
赤峰氏のモノ選びの基本は、長く愛用できること。着続けることで魅力を増すことに重きが置かれる。
(注5) 「ダンヒル」
“ブランド名に左右されない”というのが赤峰氏の信条。しかし、“背景に由来があるブランドには、必然的によいモノが多い”とも語る。英国を代表するブランドであるダンヒルはそのひとつといえる。
(注6) 「ポプリン」
1685年に登場し、18世紀初頭から一般化した織り方のひとつ。横の方向に畝を作った織物のことで、生地には独特のコシや張りが出る。
1_ 「Bogie」より。
ハンフリー・ボガードの無造作な雰囲気が粋な白のシャツのこなし。
2_ 「CARY GRANT A CELEBRATION OF STYLE」より。
白のシャツ一枚で、かようにも格好よく着こなすことができるという最高の手本。
3_ 「Sinatora」より。
胸元を開けて、袖をまくっている姿が、シンプルでありながらも、実にナチュラルで粋。小物使いもさすが。
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今月の赤峰ワードローブ [OCEANS掲載記事]
Y.アカミネ コレクションのアイリッシュリネンジャケット
赤峰氏のプライベートレーベルの2007年春夏コレクションで展開しているジャケット。モデル名は「LEE」。素材はざっくりとしたナチュラルカラーのアイリッシュリネン。将校のジャケットがイメージの源になっているミリタリーなデザインで、一枚仕立て、肩パッドなし、バックベルト付き、ベンツは深め。白シャツと合わせるのがおすすめ。
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2007年03月06日(火)
MEN'S EX 4月号 菊池武夫と赤峰幸生の Be Buffalo Forever! vol.11 [MEN'S EX 掲載記事]
菊池武夫さんと赤峰幸生さん。
ファッション界の2人の巨匠が毎回テーマを決め、それに基づいてファッションを披露し語り合う、夢の対談連載。
「今月のテーマ」
お気に入りのドレスシューズ
今回のテーマは読者の皆様に昔から根強い人気がある「靴」。ファッション界の両巨匠が語ってくれた思い出の靴は、菊池さんが「英国靴のチャーチ」、赤峰さんが「往年のアメリカ靴」という展開になりました。ちなみに、今気になっている靴はお2人ともエスパドリーユとか。その話の内容やいかに?
■(写真右)赤峰幸生氏
・シャルベのシャツ
・アカミネロイヤルラインのタイ
・アイリッシュリネンカンパニーのチーフ
・アカミネロイヤルラインの綿ギャバスーツ
・ストール マンテラッシのスリッポン
■(写真左)菊池武夫氏
・グレースのジャージ素材キャスケット
・フェルラのシルクを渡して作ってもらったベルヴェストのジャケット
・フェイヴァーブルックのドクロ柄シルクストール
・Gスターのジーンズ
・ジョンストン&マーフィーのウイングチップ
20代の頃、菊池さんはずっと英国靴の良心と謳われたチャーチを、赤峰さんは往年のアメリカ靴を、それぞれ履いていたそうで、その頃の話で盛り上がっていました。
■菊池さんはチャーチ、赤峰さんはアメリカ靴
菊池 お洒落を本当に意識しはじめたのは18歳くらいで、それまでも意識していましたけど、変な格好していましたから。下駄履いたりとかね。18歳になってからきちんとしはじめたんですけど、当時はチャッカブーツが好きでした。細いパンツにチャッカブーツを合わせてっていう感じ。ただ、革靴は子供の頃からずっと履いていました。今と違って、スニーカーなんか逆にない時代でしたから。赤峰さんが意識し出したのはいつ頃ですか?
赤峰 やっぱり高校生、17歳くらいですかね。僕もハイカットのチャッカブーツが好きでした。「ウエスト・サイド物語」という映画があって、(注1)ジョージ・チャキリスとか、ああいう連中がブーツっぽい靴を履いていたのに影響を受けまして。意識しはじめたのは、多分その頃からですね。菊池さんは思い入れの強い靴ってありますか?
菊池 僕の場合は、なんといってもチャーチです。
赤峰 ほーっ、何歳のときですか?
菊池 20代半ばから30代後半まで。かなり長い間、ずっとチャーチばかりを履いていました。
赤峰 相当早いですよね。
菊池 早かったと思います。一時期、室内履きまでチャーチで揃えて、家の中でも履いていました。いわゆるビロードのスリッパです。
赤峰 どこが好きだったんですか?
菊池 ゴツいところです(笑)。形はベーシックじゃないですか。で、革底なのにゴツい。コバがしっかり張っていますよね。その張った感じが男らしくて好きだったんです。それ以来、僕の靴はゴツいやつばかりになってしまって。ただ、'70年代にベーシックなものを全部やめてしまった時期があるんですよ。ベルボトムパンツはいて、手作りの一枚革で作った変なモカシンみたいなのとか、オランダのサボの変形みたいなのとか、そういうのばかりを履いていて。そのときは、チャーチはほとんど履きませんでした。
赤峰 僕は渋谷が本拠地だったじゃないですか。昔の恋文横丁に「サカエヤ」っていう、いわゆる米軍の流れもののお店があって、アメリカの靴が売っていまして。あそこにあった靴には憧れましたね。その後、初めてニューヨークに行ったとき、ブルックスブラザーズでコードバンのローファーを目にして。今から40年近く前ですけど、やっぱり感動しました。とにかく高かったですけど・・・・・。
菊池 実際に買われたんですか?
赤峰 もちろん、買いました。ただ、手入れが悪かったものだから、コードバンがダメになってしまいまして。
菊池 もったいないですね。やっぱり赤峰さんの根底にあるのはアメリカの靴なんですか?
赤峰 そうですね。最初に出会ったのがアメリカの靴でしたから。(注2)バスのスポートカシンっていう5アイレットの型押しシューズとか(注3)ウォークオーバーとか。フローシャイム、ボストニアンとか、あの辺です。
菊池 ありましたよね。どれも懐かしい名前ばかりです(笑)。
赤峰 あの頃はアメリカの靴に憧れていて、'60年代から'70年代にかけてのアメリカの靴はだいたいひと通り履きました。イタリアのようなキザな靴は履きたくない、みたいなのがありましたからね。あとはフランスのジェイエムウエストンの対抗馬だったジャン バディなんかも好きでした。不思議と、紐靴よりはスリッポンが多かったかな。菊池さんが浮気をせずにずっとチャーチだったのとは対照的です。
菊池 そうですね。どっちかというと、普通のちゃんとした靴はチャーチで済ませてしまったというか。フローシャイムとかも履きましたけど、あまり記憶に残ってないんですよね。
赤峰 昔のチャーチはいいですもんね。最近の靴って、特にイタリアの靴とかって、表現が大げさすぎるものが目につくんですよね。
菊池 やっぱり今の靴ってデフォルメされすぎているから、ときどき恥ずかしい。若い人にはいいですけどね。実態とそぐわないようなカタチをしている靴もけっこうありますから。
赤峰 無理やりロングノーズにしてるというか。同じロングノーズの靴でも、故意にそうするんじゃなくて、バランスのよさがもたらす結果として、ノーズが長く見えるのがいい。
菊池 そうなんですよね。今日履いているジョンストン&マーフィーみたいな木型の靴を探しているんですけど、全然ないんですよね。
赤峰 そういう昔の大切な靴って、菊池さんはリペアとかされるんですか?
菊池 僕はしないんです。本当はしたいんですけど、どうしても放ったらかしになっちゃいます。
赤峰 服でもそうなんですけど、僕も手入れのいいほうではないんです。よく靴の好きな人で靴オタクみたいな人がいるじゃないですか。やたら凝りすぎている人。そういうのは苦手です。菊池さんは、靴はこうあるべき、みたいなのってありますか?例えば常にピカピカでないといけないとか・・・・・。
菊池 靴はきれいであるというより、本当に好きだったら履きますからね。だから、履いたままの感じ。ただ、やっぱりリペアして履くくらいのマメさは、あったほうがいいと思います。僕はやってないですけど(笑)。
赤峰 僕の中では、買いたての靴って嫌なんです。
菊池 あっ、それ僕も嫌です。
赤峰 ヨーロッパの車と同じで、汚れてこないと自分の靴にならない感じがして。真新しい状態を維持するような気分って嫌なんです。どちらかというと、自分の足で革をいじめてやるみたいな。いじめ込んでいかないと、自分の足の形に沿ってこない感じがしますしね。
菊池 手入れもしないんですか?
赤峰 たまにはします。でもしょっちゅうやるとか、そういうのはないです。今日は写真撮るから、あれでも一応磨いてきたんですけど、全然磨いている感じになってないですね(笑)。
菊池 僕も普段はほとんどしないんですけど、今日は一生懸命磨いて、シューツリーとか入れたことなかったんだけど入れて(笑)。
赤峰 一緒ですね(笑)。
■今年はエスパドリーユが凄く気になっている
菊池 映画から影響を受けた靴ってありますか?
赤峰 「第三の男」です。あれはチャーチだったと思うんだけど、ドレッシーってのはこういうものなんだ、みたいなのが、「第三の男」にはある。あと、向こうの連中って、机の上にボーンと靴を乗っけるじゃないですか。
菊池 よくやりますよね。パカーンと乗っけてね。
赤峰 裏がピカッて光っているのが靴の文化だな、みたいな。真似て土踏まずのところを顔が映るくらいにピカピカに磨いた記憶がありますよ(笑)。
菊池 映画でコンビの靴あるでしょう、1930年代のやつ。その頃の映画の服が好きで、自分でもコンビの靴にスパッツをつけたりしましたね。手元にないので最近は履いてないですけど。
赤峰 コンビの靴だと、昔のテレビ版アンタッチャブルのフランク・ニティか、「(注4)華麗なるギャツビー」あたり。
菊池 ギャツビーは、いろいろ楽しめますよね。
赤峰 そうそう。あと、若い頃のイブ・モンタンがエスパドリーユを履いていて、それがカッコよくて、やっぱり憧れました。リビエラのスタイルはエスパドリーユ、みたいな。
菊池 僕ね、実は今、エスパドリーユが凄く気になっているんです。
赤峰 究極のリゾートであり、原点って感じで、あのキャンバスのいろんな色というのが、また何かいいじゃないですか。絶対色が落ちちゃうんだけど。特にエスパドリーユのジュートに黒を合わせるのとかいいなぁ。
菊池 それ、カッコいい!
赤峰 エスパドリーユのローファーとか作ってみたいんですよね。
菊池 是非やりたいですねぇ。
(注1) 「ジョージ・チャキリス」
1934年アメリカ・オハイオ生まれの俳優。高校生の頃からダンサーを志し、'61年の映画「ウエストサイド物語」でベルナルド役に抜擢。
(注2) 「バス」
1876年に創業したアメリカのシューズブランド。ブランドを代表する名作ローファー「ウィージュン」は、'70年代後半に日本でも大ブレイク。
(→)'70年代製バスの「ウィージュン」のデッドストック。
(注3) 「ウォーク オーバー」
'90年代までアメトラファン御用達だったアメリカのシューズブランド。レンガ色ソールをしたダーティバックやホワイトバックスが有名でした。
(→)ウォークオーバーの大定番だったダーティバックス。
(注4) 「華麗なるギャツビー」
スコット・フィッツジェラルドの小説を、1974年に映画化。ラルフ・ローレンが衣装を担当。写真は主演のロバート・レッドフォード。
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菊池さんのお気に入り3足 [MEN'S EX 掲載記事]
30年前に購入したジョン・マは色が◎
30年くらい前に購入したジョンストン&マーフィーの靴。スエードの色が気に入っていて、3年前に眠っているのを見つけてからは、ストライプスーツに合わせて履いています。
場を選ばず愛用のジョン ロブの1足
10年ほど前に購入したジョン ロブの「ノルウェー」というモデル。アッパーはドレッシー、ソールはカジュアルゆえ、スーツにもジーンズにも合わせてご愛用。凄く歩きやすいとか。
色気を感じさせるレ・ユッカス
日本人デザイナーの村瀬由香さんがデザインしたレ・ユッカスの7アイレットプレーントゥ。40カラッツを始めたときに、ビブラムソールで別注。作っているのは、ボナフェ。
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赤峰さんのお気に入り3足 [MEN'S EX 掲載記事]
赤峰さんの定番マンテラッシ
ストール マンテラッシの定番モデル、スエードスリッポン。赤峰さん曰く「主に夏に履いていて、履き潰しては繰り返し買っています。かれこれ6〜7足目かな」とのこと。
ロンドン ロブのビスポークです
20年くらい前に、ロンドンのジョン ロブでビスポークしたセミブローグ。通称ロンドン ロブと呼ばれるこちらは、パリのロブとは異なり、至って真面目な顔つきをしています。
フローシャイムのインペリアル
これまた懐かしい靴が登場。30年ほど前に購入したという、フローシャイムの最高級ライン、インペリアルのウィングチップ。往年のアメリカ靴の面影がたっぷり感じられます。
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