2018年04月12日(木)
朝日新聞新連載 日本の紳士服 『アルマーニ「制服」騒動 洋装150年 ブランド頼りではなくて』 [朝日新聞掲載記事]
平素は格別のお引立て心よりお礼申し上げます。
さて、3月より朝日新聞夕刊にて赤峰の新連載が始まりました。
時の潮目が大きく変わろうとしている今、服の視点から時代を月に1回、語ってまいります。
(朝日新聞様のご了解を頂き、このブログに記事全文を掲載させていただきました)
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先月、東京・銀座の泰明小学校が標準服(制服)に、高額のアルマーニを選んだことが騒動になった。
報道によれば、校長は「泰明小らしさ」を訴えたというが、高級ブランドを着れば「らしさ」が表現できるのだろうか。そこには、服飾における日本人のブランド信仰が見て取れる。
校長は「服育」という言葉も使ったが、その本質は生活する上でのたしなみを学ぶ「生活育」だろう。毎日洗ったハンカチを持つとか、スラックスにアイロンをかけて出かけていくとか、洗顔や歯磨きと同じように身だしなみを学ぶことが大切だ。
私は服作りの仕事で年に数回は欧州に出かけるが、そこでは「生活育」が浸透していることに感心する。親が子どもにジャケットや革靴を身につけさせ、白、紺、グレー、茶といった基本色を中心としたコーディネートを教えている。振り返って日本では、茶色のベルトをしているのに、黒い革靴を履いている大人の姿をいまだに目にする。
今年は明治維新から150年。開国以来、日本人の洋装の歴史は長いとは言えない。私たちが作り上げたものではないから、その流儀にはきちんと倣う必要があるだろう。
大戦までの日本紳士の洋装を見ると、正統の英国流が色濃い。夏目漱石、吉田茂、白洲(しら・す)次郎ら、今でも手本となるウェルドレッサーがいた。
しかし戦後、すべてをコンビニエント(便利)にする米国流が広がって、洋装は崩れたと言わざるを得ない。寒い季節にはずっしりと重いツイードのジャケットを楽しむのではなく、スリーシーズン着られる薄手のダークスーツが広がった。作り手・売り手の巧みな商品計画で、服のカジュアル化が進んだ。
世界に出て行って仕事をするグローバルな時代だからこそ、改めて基本を学ぶことが大切だ。装いの楷書体を身につけてこそ、独自にアレンジした行書体や草書体に進めるというものだ。
創立139年の歴史を誇り、島崎藤村も輩出した泰明小の前には、柳の木がある。その柳で染めた着物を作っているのが、創業約40年の「銀座もとじ」だ。泰明小で染め物の出前講座もしたと聞く。銀座は日本人の洋装文化を支えてきたテーラーの集積地でもあり、和洋の伝統が息づく。
確かにアルマーニは英国源流のスーツをイタリア流に咀嚼(そ・しゃく)して新しいスタイルを生み出した、尊敬に値する存在だ。だが一流ブランドの力を借り、自らもブランド化しようという泰明小の姿勢からは、通学区域外からも入学できる特認校として、子どもを集めたいという姿勢が透けて見える。
泰明小の教育活動の標題「泰然・明哲」は、まさに紳士淑女の理想のあり方だ。自らの歴史と身の回りで形作られた文化に目を向けてオリジナルな制服を作れば、より誇れるものになったのではないか。そんなことを考えさせられる騒動であった。
(朝日新聞 平成30年3月2日夕刊 より)
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Posted by インコントロ STAFF at 13時35分 コメント ( 0 )