2014年01月20日(月)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 同じような物を買う 2014年1月18日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
年が明けて、初買いやバーゲンセールを楽しまれた方も多いことでしょう。今回は、私の買い物のセオリーについてお伝えしたいと思います。
私が手がけるスーツブランド「アカミネロイヤルライン」のお客様には、「50代でワードローブを完成させましょう」といつもお話ししています。「良いものを少しずつ」が基本的な姿勢です。
例えば現在のような寒い季節なら、基本となるグレーのフランネル(起毛感があるもの)、紺のシャークスキン(サメの肌のような細かい斜めの柄)といったスーツを3着。5着あれば言うことがありません。さらに少なくともシャツを5枚、ネクタイ3本、ポケットチーフ3枚といったところでしょうか。コートも1着必要ですね。
こうしたセットが、秋冬と春夏でそろうと、買い物は一巡したことになります。
そして新たに買い物をする時には「同じようなものをついつい買ってしまうのが正しい」ともお伝えしています。自分のスタイルが固まってくると、似合うものもよくわかり、気に入って頻繁に身に着けるものこそ、繰り返し買ってよいのです。「まだ、こんな色や柄は持っていないから」とさまざまなものに手を出しているうちは、「ファッションに迷う若者」です。
だから、「新しい店には行かない」というのもシブイ選択です。新しいヒットをどんどん作りたい売り手側のサイクルに組み込まれることなく、3年経って店が残っていたら行ってみるぐらいが、ほどよい時代の取り入れ方ではないでしょうか。
買い物が好きだと、「これ欲しい」という衝動が常に襲ってきます。常に「自分が持っているものに合うかどうか」を軸に検討を進めましょう。
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2014年01月07日(火)
だしが利いた服を [朝日新聞掲載記事]
去年のことになりますが、「いのちのスープ」で知られる料理研究家、辰巳芳子さんのドキュメンタリー映画を見ました。米寿を超えた今も、丹精込めてだしを取った汁物を作り、庭の梅を漬け込む仕事も続けています。その生き方に教えを請いたいと、料理教室には順番待ちの列が絶えないといいます。
いま、都会で働く人たちは、たいへんなスピードを求められています。常に「早く」「効率的に」とせき立てられ、まるで五倍速の時計を身に着けているかのようです。
傑作を数多く残したアニメ映画監督の宮崎駿さんが、商業ベースでは自分のペースで仕事ができないと、長編の制作舞台から降りることを決めたのも去年のことでした。丁寧な仕事と、現代ビジネスの速度がかけ離れてしまったことへの苦悩があったのではと推察します。こうした時代だからこそ、「カチカチ」としっかり時を刻んでいくような仕事が尊いのにと、残念に思います。
「ファッション」と言えば、移り変わりが激しいものと思われているかもしれません。確かに、日本では最近まで、「これを着ないとまずいかな?」というマス消費が続いていました。結果、不要になった服をどんどん捨てていきました。
しかし、最近は「ずっと続いていくもの」が共感を得て選ばれるようになったと感じます。
本当に良い服とは、丁寧に染め、糸を紡いで、織り込んで、縫い上げたもの。手間ひまをかけた、いわば「だし」が利いた服です。調味料を振りかけるのではなく、素材からしっかり時間をかけてうまみを抽出したものだと言えます。
新しい1年が始まりました。さらに「だしが利いた服」に目を向けて頂けますように。
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2013年12月16日(月)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 「ハレの場には演出を」 2013年12月14日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
前回は「普段のスーツを使ってドレスアップし、披露宴やパーティーへ」とお伝えしました。宴席の多い季節ですから、今回も引き続きハレの装いについてお伝えしましょう。
礼服に関する決まりごとは、以前よりずっとおおらかなものになってきました。もちろん、お葬式には黒のスーツで弔意を表現する必要がありますが、お祝い事ではそれほど堅苦しく考える必要はありません。
例えば、フォーマルな場では、日中はモーニング、夕方以降はタキシードを着ることが昔からの決まり事になっていますが、日本では昼間にタキシードを着ても問題にはなりません。ルールは知っておいた方がいいけれども、とらわれすぎることなく、きちんとドレスアップをして祝意を表現することが大切だと思います。
ハレの場にふさわしい蝶(ちょう)ネクタイは、「特別な感じ」の演出にはもってこいの小道具です。歴史を振り返れば、蝶ネクタイがほどけて、現在のネクタイの形になったのはご存じですか?
パリのバンドーム広場にある有名店「シャルベ」の蝶ネクタイは結び目が太く、その存在感が気に入っています。普段は身に着けない方が大半でしょうから、違和感があるかもしれませんが、だからこそ演出効果が生まれると言えるでしょう。
パーティーは楽しむことが大切ですから、蝶ネクタイのほかにも、時には会話を盛り上げるような仕掛けを装いに施していきます。
私が一時、凝っていたのは、ポケットチーフの代わりに、ゴムでできた小動物を胸ポケットに入れていくことです。トカゲ、ヘビ、トンボ……。「何ですか、それ?」から会話が始まって、楽しめること間違いありません。
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2013年12月02日(月)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 「着回しでパーティーへー」 2013年11月30日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
先日、大阪にお住まいの読者の方から、「近く東京・銀座でパーティーがあるのだが、以前赤峰コラムで読んだトニック生地のスーツを検討している」とお便りがありました。
ヤギの毛を使ったトニックにはハリと光沢があり、ハレの場にふさわしい。披露宴でも、親族なら黒の礼服になりますが、ゲストなら明るいグレーのトニックでいいと思います。
祝意を表現するために、着こなしには一工夫加えましょう。シャツはもちろん白ですが、袖口の仕上げをダブルにして、カフスボタンで留めるといいでしょう。ネクタイは、例えば赤と黒のレジメンタル柄で、ベルトと靴は黒。フォーマルな黒を取り入れながら、華やかさも演出します。ポケットチーフは白。私なら小さな赤いバラをラペルの穴に挿しますが、上級と思われるでしょうか。
このパーティースタイルのポイントは、普段も使えるスーツだというところでしょう。パーティーのためだけに着るタキシードやモーニングにも良さがありますが、着る回数を考えるとそれほどお金をかける気にならない人も多いでしょう。
その点、「普段も着られて、コーディネート次第でパーティーにも出掛けられるスーツ」の方がずっと価値があると思います。そのためには、いつもお薦めしているように「少し明るい色調のスーツを選ぶ」ことが大切になります。私はブルーの発色が鮮やかなリネンのジャケットなどもパーティーで活用しています。ベージュ系のスーツも春夏の会食などにはバッチリ適しています。
「とりあえず黒でしょ」と安物の礼服を手に取るのはもう終わり。普段もしっかり愛せる上質なスーツで、祝意を表現してはいかがでしょうか。
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2013年11月18日(月)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 「ビンテージになる服を」 2013年11月16日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
かねて「装いに用いる色は、身の回りの自然を参考にしましょう」とお伝えしています。秋が深まり、熟した柿の色をネクタイや服地のチェック柄にさりげなくあしらう紳士を見ると、「おぬし、やるな」と感じ入ります。枯れた草原を思わせるツイードも季節感があっていい。
さて今回は、私が英国を訪ねた時の楽しみの一つ、「ビンテージ」と呼ばれる古着を巡る散策についてご紹介しましょう。
ロンドンには、骨董市で有名な「ポートベロ−」のほかにも、味わい深いビンテージが見つかるお店が点在しています。9月にも、ケンジントンの「ホーネッツ」など、なじみの店を訪れて、掘り出し物がないか見て回りました。
日本には残暑があったのですが、かの地は初秋の冷え込みで、思わずコートを買いました。状態にもよりますが、バーバリーやアクアスキュータムといったブランドのものが1万円前後でもあり、たいへんお買い得だったのです。
履き込んだ靴も大好きです。私は着込んだ服を好むので、新品の靴ではしっくりきません。古い靴なら今の自分の装いにそのままぴったり合うものが見つかるのです。
英国には古い服を直して着る文化があります。特に礼服などでは多く利用されているようです。ビンテージになった良品には、ローテクで速度を落として作られたものの良さがあり、そこには「クラシックの継承」という精神が確かに息づいています。そして日本を振り返り、「トレンド消費の果てには、ビンテージは生まれない」と考えさせられるのです。
「孫にも受け継いでいける素材が使われているか」。新しいスーツを買う時には、そんなことも考えてみてください。
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