2006年03月24日(金)
OCEANS 5月号 連載#2 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
ラペル幅の粋
まず、前提としてお伝えしたいのだが、私はクラシックを偏愛しているわけではない。モードにはモードの良さがある(でも、私は触手を伸ばさないがね)。そして、どうやら近頃、モードはクラシック寄りになっているようだ。モードはクラシックのアレンジでありアンチテーゼ。クラシックとは基本であり、基本があるからモード=応用がある。応用をこなすために、基本を知る。本末転倒な話ではないだろう。しかしながら、日本は洋服の歴史が欧米に比べて浅いがゆえに、基本をよく理解もせずして、小手先ばかりに気を使い、翻弄されている。
さて、第2回のテーマは「ラペル幅の粋」について。先にモードに触れたのにはわけがある。スーツの印象を決定付けるのは、ラペル幅であるからだ。モードは(注1)ラペル幅をいじることでスーツに個性ををもたらす。正統なスーツのラペルは目立たない。なぜなら、中庸な幅で全体に自然と溶け込むからだ。中庸を具体的な数字で説明すると9.5〜10cmが目安。クラシックスーツならば、恐らくその範囲内であるはずだ。ただし、誤解されないよう付け加えると、基本であることは絶対条件ではない。
例えば、私が着ている(注2)リベラーノ&リベラーノであつらえたジャケットの場合、ラペル幅は9cm。あえて、ややナローにし、モダニティを取り入れている。そういった、基本を知ったうえで好みを反映することは構わない。そしてスーツの顔であるラペルは、幅に加え、(注3)ゴージラインやノッチが一体となって完成される。
今回はラペルについて言及したが、私が伝えたいことは、粋とは「あざとさ」や「これ見よがし」ではないということ。まずは、洋服と自分を調和させる術を知る。そして、実践することこそが粋なのだ。しかしながら、これが明文化されているわけではなく、ルールに則ればいいわけでもなく、ことのほか難しい。だから、クラシック道を歩み始めると奥が深く、そして面白いのである。
(注1) 「ラペル幅をいじる」
ラペルとはジャケットの下襟のこと。いじるとは幅を細くしたり、太くしたりして標準からアレンジすること。ディオールオムはラペルを細くし、ドルチェ&ガッパーナやグッチはラペルを太くする傾向にある。
(注2) 「リベラーノ&リベラーノ」
フィレンツェ屈指のテーラーであり、アントニオ・リベラーノ氏が率いる。赤峰氏とは旧知の友であり、お互いを尊敬し合い、高め合う間柄である。
(注3) 「ゴージラインやノッチ」
ゴージラインとは上襟と下襟をつなぐ縫い目の線。その高低や角度によって印象が様変わりする。ノッチとはV字形の刻み目のこと。一般的なノッチドラペルの他に下襟が長く上に向くピークドラペルやクローバーリーフラペル、フィッシュマウスラペルなど様々なデザインがある。
マエストロの蔵書のひとつ「L'ELEGANZA MASCHILE」。イタリアンエレガンスの教科書的な本。載っているジャケットのラペルはみんな中庸な幅。クラシックは流行に左右されず、今に伝えられているのです。
「THE MODERN MITCHELL SYSTEM」は、'50年代のアメリカの型紙の参考書。スーツはイギリスで生まれ、イタリアで成熟した。そして、アメリカでは両国をお手本に進化します。こうして数値化して基本を取り入れたのです。
男の粋な装いをイラストで紹介する「MAN'S FASHION」。描かれているスーツやジャケットのラペルも、また中庸な幅ばかり。クロージングの基本は普遍的。そして世界で通用するのは、やっぱり王道のスタイルです。
スタンダードを知っているからこそ、ラペル幅をアレンジしても自然にこなせる
マエストロ赤峰氏が着用しているのは、フレンツェに店を構えるリベラーノ&リベラーノにて誂えたブラウントロピカル地のスーツ。ラペルは赤峰氏のスーツワードロープの中では最も細く9cm。合わせている白のシャツは細番手のツイル地で、タイは平織りのマイクロハウンドトゥース柄。白のチーフは基本のTVフォールドにて。全体のハーモニーが自然に見えて、実にエレガントである。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )