2013年06月05日(水)
MEN'S EX 2013年7月号 赤峰幸生の「服育のすゝめ」 vol. 7 [MEN'S EX 掲載記事]
TPO別“粋”な装い その@
『盛夏のビジネスこそスーツを愉しむ』
近年、男性のドレススタイルはカジュアル化が進み、高級レストランやレセプションパーティーでも「スマートカジュアル」などという、フォーマルなのかカジュアルなのか曖昧なドレスコードを要求されることが多くなりました。
時代の流れですので、決して憂うものではありません。しかし境界が曖昧だからこそ、基本をしっかり知っておきたいもの。場に相応しい着こなしこそ、真の洒落者が最も重要視することだからです。そこで今回からは、TPOごとの粋な装いについてお話したいと思います。
TPOの正統とはグローバルな装い
今回は夏のビジネスでの装いについて。オンの心構えとして、私は「上着の胸にパスポートを持っている気分が必要」と考えます。パスポートを持つということは、いつでも海外へ飛び出せるということ。グローバルスタンダードとして、人前に出る際はジャケット・タイ着用が基本です。ラフで快適な服装もときには結構ですが、本式のドレスアップも忘れるなかれ。しかし、酷暑の中で修業のような堅苦しい服装を強いるものではありません。夏には夏のドレスアップを愉しもうという提案です。そこでおすすめしたいのは、リネンスーツのドレスアップです。
夏のビジネスマンこそリネンを着るべき
昭和の丸の内には、麻のスーツをキリッと着こなしたお洒落なビジネスマンが闊歩していました。麻はカジュアルに見られがちですが、実はきっちりドレスアップするのが本式なのです。色はベージュとネイビーが2大定番。私はスーツのポケットは両玉縁にして、皺が出やすいフラップは付けず、パンツはベルトレスで仕立てています。
ここでひとつ赤峰流のこだわりを。リネンは必ずヘビーウェイトの生地を選びます。薄手で軽いリネンは着心地も楽なのようですが、ベントがロールしてしまい、後ろ姿が美しくありませんので。
さらに、ベージュリネンスーツの装いをご提案しましょう。まずシャツは白無地。リネンスーツにはリネンシャツを合わせるのが私のセオリーです。タイはガルザのブルーストライプ。夏の海や空の色を思わせる明るいトーンとは、以前に夏の装いでもご紹介しました。チーフは麻の白をパフ挿しで。グレーのリネンホーズは日本ではなかなか手に入らないので、海外で購入しています。靴は気持ち明るい茶の表革。ちなみにネイビースーツなら黒のスリッポンも良いでしょう。
コットンは日本製が良質ですが、リネンはやはりヨーロッパ。スラブ糸が少ないベルギーリネンがドレス向きです。以前、アイリッシュリネンの最高峰といわれるスペンス・ブライソンの本社を訪れたことがありますが、倉庫には極上のモイガシェルが大量に眠っていました。是非復刻したいと申し出たのですが、生産環境の変化によって、もう当時の糸を引くことはできないそうです。
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2013年05月09日(木)
MEN'S EX 2013年6月号 赤峰幸生の「服育のすゝめ」 vol. 6 [MEN'S EX 掲載記事]
季節の装いを知る そのB
海が似合う夏の装い
夏のリゾートといえば海。葉山、沖縄、バリ島も良いですが、何度も足を運んでいるのはイタリアのビーチリゾートです。シチリアのタオルミーナ、エオリエ諸島のリパリ島、フィレンツェから程近いフォルティ・ディ・マルミも想い出深く、ナポリの南はアマルフィ、ポジターノもまた趣を異にします。
サルディーニャ島のオルビア空港から、北部のポルトチェルボまではタクシーで小一時間。高級ブティックが軒を連ねるこの街は、ヨーロッパの富裕層が集う高級リゾート地です。私が訪れたときは50ccバイクが免許なしで乗れる時代でした。レンタルバイクで畦道を飛ばすと、やがて真っ白な砂浜に出ます。砂浜に寝転んでコスタズメラルダ(エメラルド海岸)を眺めていると、どこからかオペラを歌う声が聞こえてきたそのシーンは、涙が出るほどに美しい光景でした。
そんな私にとって、夏の装いとは海の装い。今回は、粋な男の海の装いについてお話したいと思います。
私が粋な海の装いに憧れるようになったのは、映画「太陽がいっぱい」を観てからです。主演のアラン・ドロンも良いですが、素肌にレザーのジャケットを羽織った不良役のモーリス・ロネもカッコ良かった。もうひとつ「太陽の下の18歳」は、イスキア島の海辺を舞台にしたイタリアの青春映画。長身のカトリーヌ・スパークの見事な肢体も見どころですが、登場人物が色とりどりのラコステのポロシャツを着ていたり、ベージュのコットンスーツを纏っていたり、これぞ夏の装いと焼き付いています。
太陽・海・波飛沫が赤峰流、夏の三原色
サルディーニャの海はエメラルド、イスキアはコバルトブルー。その砂浜に打ち寄せる波飛沫は真っ白で、波打ち際から沖までブルーグラデーションが様々に変化します。そして空を見上げれば、太陽はオレンジがかった赤。これらの光景からインスパイアされた、海の青、波の白、太陽の赤。これが私にとって、夏の装いの三大要素になっています。タイドアップした装いからリゾートスタイルまで、夏の服装には大抵この3色を盛り込んでいます。具体例として、ビーチサイドのデッキチェアで寛ぐときの装いをひとつ考えてみました。まずジャケットはコットン地のブルー。同じ青系でも、夏は冬よりトーンの明るいものを選ぶのが定石です。これに打ち込みの良いドリルクロスのグルカショーツを合わせ、インナーはラコステの赤の鹿の子ポロ。ボタンは二つとも開けて、襟は立てないのがこの場合エレガントです。そして、足元は白のエスパドリーユ。胸元にはチーフも忘れずに。海辺だからといってだらしない格好はせず、あくまでもドレスマインドで装うのが粋な男というものです。
着こなしの幅が広がる冬も良いですが、夏は太陽の光と風を思い切り楽しめる絶好の季節。じりじり焼ける太陽、そよぐ風、打ち寄せる波を肌で感じつつ、夏ならではの色と素材の装いで自然と一体になる。私にとって最高のひとときです。
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2013年04月09日(火)
MEN'S EX 2013年5月号 赤峰幸生の「服育のすゝめ」 [MEN'S EX 掲載記事]
季節の装いを知る その2
雨の日の装いを愉しむ
先日、ロンドンへの出張時、舞台版「雨に唄えば」を観てきました。ジーン・ケリーの名作映画に比肩する素晴らしい演出に感動しました。もうすぐ日本も、梅雨の季節がやってきます。
お洒落をするうえで、雨というのは気が重いものです。服装や靴は濡れても乾きやすいもの、汚れても構わないものなど、選択肢は制限されがち。そかしそれではお洒落も消極的になってしまいます。
私なら雨の日ならではのお洒落を楽しみます。晴れの日にはできない、レインコートの装い。雨に濡らすことで生地がこなれ、パッカリングが浮く。味出しするのに絶好の機会です。まだ若いレインコートに袖を通して、やがて表れるエイジングを想像しながら、わざと少し傘を傾け街を歩くもよし。また、何年もかけて身体に馴れ、濡れては乾きを繰り返すことで油が抜けた、味出しの済んだ昔のレインコートを纏うのも嬉しいものです。
赤峰氏愛用のレインコートとは?
私が所有するレインコートをご紹介しました。まず、若い頃ロンドンで手に入れたバーバリー。いまもクラシックな美しい佇まいです。次に、もうひとつの大定番、アクアスキュータム。こちらはパリで購入したもので、袖の鎌が高く垢抜けた印象。このほか、ポリエステル+コットン素材のブルックスブラザーズ、アカミネロイヤルラインのブリティッシュハンティングコートなどなど。各国のいろいろなレインコートを愛用しています。しかしそのなかでも、最も気に入っているのが「ロンドンフォッグ」というメーカーの一着。ロンドンと冠されていますがアメリカのメーカーで、第二次大戦中は米海軍にコートを納品したり、デュポン製撥水生地のコートで人気を博した歴史あるブランドです。30数年前にポートベローの蚤の市で購入したのですが、当時の価格で5〜6万円と強気な価格でした。ラグランスリーブのAラインシルエットが絶品です。
雨の日が愉しくなるコーディネート術
レインコートを着るときはボタンを上まで留めて、ベルトとともに袖口のベルトもしっかりと留め上げます。足元はハンティングブーツにパンツの裾をインして、あるいは短靴にオーバーシューズを履くことも。実は今、素敵な長靴を探しているのですが、神田須田町に良さそうな日本の長靴を扱う店を見かけ、ゆっくりと訪れてみようと思っているところです。
赤峰氏にとって雨の日は「お気に入りのレインコートが着られる!」と、心待ちにしている日。雨に濡れてもクリースがとれない、目付け440g/uの「アカミネトニック」生地のスーツにオーバーシューズを履いて街を歩けば、過日ロンドンで観劇した「雨に唄えば」の名シーンのように歌い踊りたくなるような気分になるのだそう。ちなみに傘は少し大きめが好みとのこと。
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2013年03月05日(火)
MEN'S EX 2013年4月号 赤峰幸生の『服育のすゝめ』 vol.4 [MEN'S EX 掲載記事]
季節の装いを知る その@
『春は花色を取り入れる』
これまで3回にわたって、映画に学ぶ紳士の服装術についてお話しさせていただきました。しかしひとつ言い忘れていたことがあります。スクリーンのなかの服装をただ真似るだけではいけません。服装はシーンに空気のように溶け込まなくてはいけないのです。名優たちは物語のなか、絵のように美しい立ち居振る舞いでいます。決して服だけ浮いてしまうことはありません。
お洒落な服装は、常に場の空気と一体でなくてはなりません。それは着ていく場所と同時に、四季折々との整合性も重要です。お洒落のポイントは自然と場の空気に溶け込む季節の色を纏うことなのです。冬の枯れ草にはツイードのジャケット。空のグレーにはフランネルのスーツ。秋の落ち葉の黄や紅の濃色は、ニットタイで取り入れるのがよいでしょう。夏の空、海の碧は鹿の子のポロシャツが似合います。枯れ木に緑が芽吹き、色とりどりの花が咲き乱れる季節には、華やかな赤のシルクタイ……。
ヨーロッパでも季節の花々の色を取れ入れる着こなしは伝統的に受け継がれています。なかでも紫から赤の花色は人気の高い色使いです。春はライラック、初夏はラベンダー、夏から秋へはアザミやヒースの色。華やかな赤色も季節によってトーンは様々。これを上手に着こなして取り入れることで、装いに季節を感じさせることができるのです。
春の時季、私ならこんな装いで……
私ならスーツはグレー味のあるブルーのモヘア。冬の灰色の空から、春の明るい青空へ移り変わる途中をイメージさせる色です。普通の青よりも、一段明るい色を選べば、より春らしさを表現できるでしょう。素材はドーメルの「トニック」。春とはいえ、最低目付け350g/u程度は欲しいところです。打込みがよくずっしりと量感ある素材は型崩れしにくく、スーツを長く愛するためには不可欠ですから。シャツはブロードより少し薄手のコットン。春の花、ライラックの薄いパープルに近いもの、タイとチーフはお気に入りのシャルベを。共にシルク地で、色はボルドーと中間的なパープルカラー。春の花々の赤がそのイメージです。スーツの大地に花を咲かせる。これぞ真の「旬」の色といえるでしょう。
真の意味での「旬」は毎年巡りくるものです
近頃は軽々しく流行を「旬」と呼ぶことが多くなったように思います。「旬」という言葉は本来、季節の食物に使うもの。毎年のようにやってくる普遍的なものです。しかし近年使われる洋服の「旬」とは、通り過ぎて行くだけの「流行」に過ぎません。流行りものは必ず廃れるというのに。私は「流行」ではなく「旬」を求めます。今春は豊富な色がトレンドだそうですが、私は常に季節の色を取り入れることで流行とは一線を引いています。「旬」という言葉をいま一度見直してこそ、普遍的な「洒落」に近づけるのです。
赤峰さんが色を着るのは「流行だから」ではなく、「季節」に合わせた着こなしをするため。ベースは海や空、大地の色。シャツタイやチーフ、小物などに動植物や花の色を差すことで、景色に溶けこむ装いを意識する。スーツ生地は軽量なものより、しっかり重さのあるものを選んで。これもまた流行に左右されない服装術だ。
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2013年02月05日(火)
MEN'S EX 2013年3月号 赤峰幸生の「服育のすゝめ」vol.3 [MEN'S EX 掲載記事]
名作映画に学ぶ服装術 その3
『カサブランカ』&『いぬ』
幼少の頃から外国映画が好きで、パンフレットなどを切り抜いてはスクラップしていました。それは今も私のオフィスにあり、貴重なアイデアソースとなっています。昔の名優たちの着こなしには、学ぶべきところがとても多いのです。
なかでも出色はトレンチコートの着こなしです。最近はラペルが太く雄々しいダブルブレストのスーツやジャケットの流行もあり、再びトレンチコートなみ耳目が集まっていますが、これほどまでに男らしい服はありません。軍服出自の武骨さが魅力で、新品ではなく着込んで生地がよれ、皺っぽくなったぐらいが恰好よい。トレンチコートはアウターの基本であり、男が憧れる“男”のアイコンだと言っても過言ではありません。
『カサブランカ』に見るトレンチ着こなしの機微
トレンチコートが似合う名優といえばなんといっても『カサブランカ』のハンフリー・ボガードが筆頭に挙がります。昔の女の亭主に嫉妬しながらも気障な台詞を吐き、ラストシーンでは潔く身を引く男のダンディズムと、ボギーのトレンチコート姿は今も目に焼きついて離れません。
トレンチコートはベージュのギャバジンもしくはツイル。合わせるスーツはグレイフランネルもしくはサキソニー、春夏ならウェイトのあるモヘアなど、生地に存在感があるものがよいでしょう。ボタンを閉じてもたっぷりと余裕のあるコートの身頃は、腰回りにギャザーが寄るほどウエストベルトで絞り上げるのが粋な着こなしのポイントです。袖のベルトも同様に忘れてはいけません。一般的なコートにはストールなどの巻物がセットなのですが、トレンチには不要。それからもうひとつ、非常に重要なのが襟の表情です。むやみに立てればいいというわけではありません。装うシーンを考えて、ドレッシーに着るときは襟を立てず、小雨や風の中を歩くとき、さりげなく、自然に立てる。これぞ王道であり正統派の、男のトレンチコート姿なのです。
もうひとりトレンチコートの着こなしのお手本として、1962年のフランス映画『いぬ』から、ジャン=ポール・ベルモンドを挙げておきます。こちらはふんわりと甘さのあるフレンチシックなトレンチコート姿。ブリティッシュスタイルのボギーとはひと味違った着こなしですが、どちらも粋にトレンチコートを着ているという点に於いては同様なのです。これほどまでに着る人によって表情を変えるのは、トレンチコートならではの魅力といえるのではないでしょうか。
初めてのトレンチコートは家に帰って、すぐ・・・
そういえば私の初めてのトレンチコートは、21歳のとき日本橋丸善で購入したバーバリーでした。家に帰ると、買ってきたばかりのトレンチコートを風呂目の湯に浸け込んだのです。今でいう洗い加工ですね。トレンチは皺っぽいほうが恰好いいと、映画で学んだものですから。
『カサブランカ』
1942年マイケル・カーティス監督作品。トレンチコート姿のボギーが空港でイルザたちを見送るラストは、ボギーとイルザの2人が脱出するバージョンも撮影されていた。もし後者で公開されていたら、ここまで名作と呼ばれなかったともいわれる。
『いぬ』
1962年ピエール・ルズー監督作品。モーリスは親友シリアンと“仕事”を計画するが、あえなく警察の御用に。モーリスはシリアンが密告したと勘ぐるが、密告者はモーリスの情婦だった。
Posted by インコントロ STAFF at 15時23分 Permalink コメント ( 0 )
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