AKAMINE BLOG

メンズファッションディレクター 赤峰 幸生のBLOGです。

2009年05月24日(日)

OCEANS 7月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]

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マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛・・・・・・などなど。30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。そんな皆さまの“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆さんの質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に救いの手を差し伸べてくれるハズ!では皆さん、ご一緒に! 教えてっ、マエストロ!


今月のテーマ
“先人の言葉”

[今月の質問]
赤峰さん、初めまして。毎月、心に染み入る言葉をありがとうございます。今回、私が伺いたいのは、具体的な悩みの解決方法というわけではなく、赤峰さん自身の「好きな言葉」です。以前、赤峰さんは、「人生に迷ったとき、苦難と向き合ったとき、幾度となく先人が残した言葉に助けられた」ということをおっしゃっていました。そんな強い言葉を詳しく伺えたら、私自身も自分の人生に対して勇気が湧いてくる気がします。あつかましいお願いですが、是非よろしくお願いいたします。(34歳・東京都在住・メーカー勤務・T.A.さん)

Q.なるほど。たしかにマエストロは言葉の巨匠でもありますからねっ!そいじゃあ、早速、勇気が凛々と湧いてくる“言葉”をぶちかましてください!!
 このスットコドッコイの大ばか野郎がっ!てめえは先人の言葉を何だと思ってやがる。そのへんの応援ソングじゃねえんだ!!先人の遺した言葉は、彼らが苦労を経験して初めて得ることができた、奇跡ともいうべき遺産である。ちょっとくらい思い悩んだからといって、ハンバーガーを頼むように、簡単には出てこねえんだっ!!しかし、まあ、お前は置いといて、この読者は言葉の大切さに気付いているだけ素晴らしい。では、私の経験をお話しよう。
 私の人生に最も影響を与えた言葉はふたつある。 いずれもアパレル会社で働いていた20代半ばに、大川さんという恩師にいただいたものだ。彼は当時の私の上司で、穏やかな人柄の四十代半ばの紳士だ。当時の私は、働き始めて数年経っていたということもあり、ようやく仕事を覚えはじめ、ソツなく仕事をこなしているつもりでいた。しかし、一方でパターン化された仕事に単調さも感じていた。そんなある土曜日の夜、大川さんに飲みに誘われ、こんなことを言われた。「赤峰君よ、どんな小さな仕事をするときにでもね、初めに井戸を掘った人間のことを忘れずに水を飲まなくてはいけないよ」。そのときはピンと来なかったが、帰り道、「ああ」と思ったものだ。ひととおりの仕事を覚えた気になっていた私は、確かに当初持っていた、仕事に対する熱意を失っていたかもしれない。そしておそらくは、知らず知らずに仕事が雑になっていたのだろう。そんな私を見た大川さんは、私のことを思って「論語」にあるそのひとつ目の言葉を贈ってくれたのだ。私は翌週からすべての仕事を見直した。そしてひとつひとつの作業に関する、目的を考えるようになった。するとどんなルーティンな仕事にも、そのシステムを発案し、構築した人間がいて、次に仕事をする人が失敗したり、ミスが起ったりしないような工夫がなされていることに気付いたのだ。私はそんな“井戸を掘った人間”の存在も知らずに、何の考えもなく、ただ先人が組み立てたシステムを動かしているだけだったのだ。にもかかわらず、仕事ができている、という顔をしていた私は傲慢以外の何物でもなかったよ。
 そして二十代最後の年を迎えるころ、この言葉はまた別の響きを持つようになった。“井戸を掘った人間のことを考えているうちに、今度は私が井戸を掘ってみようという気になったのだ。大川さんに話すと、とても喜んでくれた。「『論語』にもあるように、私が話した一から、赤峰君は十を知ってくれたわけだね。赤峰君、まだ誰も掘っていない井戸を掘りたまえ。その水は多くの人に、そして後世の人に必ず何かしらの恩義をもたらすはずだ
」。私が当時、誰も注目していなかったイタリアの服に目を付けたのは、この言葉の影響によるところも大きい。そんなフロンティア意識を持つことができたからこそ、今の私があるといってもいい。
 

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(→)真剣を振るった先月に続き、今回マエストロが往くのは腕に覚えのある書の道。しかし、手にしたのは普通の筆にあらず。なんと、身の丈を超えんばかりの超特大の筆なのでした。マエストエロには書美院の院長、内野七色さんのご指導のもと、「心」という字を書いていただきました。その力強く真っすぐな字面は、マエストロの生きざまを物語るようでした。「背筋が伸びるようなこの緊張感は、心が洗われるようだ。東洋文化の真髄といわれる書道。その奥深さは、服づくりの道にも通ずるものがある」と語るマエストロ。白×黒の千鳥格子のスーツを纏い、袴にも通ずる格式を意識して装うあたりは、やはりただ者ではありません。
 

Q.深〜い、深すぎますっ!マエストロの掘った井戸・・・・・、じゃなくて、お話がっ!!では、仕事で簡単に成功できる秘訣を教えてくれるような、便利な言葉はありませんか!?
 この大ばか野郎がっ!なんとまあ、安直かつセコイことを言う奴だ簡単に仕事で成功する秘訣だと?開いた口が塞がらねぇとはこのことだ!そんな言葉などない!ただ、進むべき方向を指南してくれる言葉があるだけだと心得よ。
 話は戻るが、私が会社を起こすと言ったとき、大川さんは、内心不安でいっぱいだった私の心を察したのであろうか、こんなメッセージをくれた。「中国にはこんな言葉がある。“往くは小道に寄らず”だよ」と。生きるということは、王道とは何かを常に探し、考え、その道をただまっすぐに突き進むこと−私は大川さんからいただいたこのふたつ目の言葉によって、それまで熱意こそあれ、目先のことしか考えていなかった自分に気付いた。頭の中は明日の予定や来月のお金のことだらけ。しかし、この言葉を知ってから、私は常に10年先のことを考えるようになった。すると日々の些細なことでくよくよ悩まなくなった。そしてバブル期にはびこった投機話の類にも、私はこの言葉を反芻し、一切手を出さなかった。ただ王道を突き進み、小道に寄ることなど、よしとしなかった
 洋服の企画に関しても同じ考え方をした。周囲を見渡すと、やれトレンドだの、次は何色が来る、など目先の予想に振り回される輩ばかりであった。私は数ヵ月後の流行など完全に無視し、10年後、いや50年経っても着られる服づくりを目指した。肌触りがよく、丈夫な生地を用い、トレンドに左右されない本物のクラシックデザイン。採算を度外視して上等な生地を用い、手作業をふんだんに取り入れた。おかげで儲けこそ少なかったが、幸いにしてファンは着実に増えていったものだ。
 そしてつい先日、大川さんの言葉に改めて感謝したことがあった。そのきっかけは、私の洋服を購入してくださっているファンの方からいただいたある手紙だった。手紙の送り主は55歳の男性で、1986年に私の作ったコーデュロイパンツを買ってくれたという。しかし、なんと彼は22年を経た今でもなお、そのパンツをはき続けてくれているというのだ。手紙の最後は、「これほど長く着られるものを手に入れられて、私は幸運です」と結ばれていた
 思わず目頭が熱くなり、私は天を仰いだ。そして心の中で、今は亡き人生の父に、感謝の言葉を述べた。「この仕事をしてきてよかった、自分は間違っていなかった」そんなふうに思える、ひとりの男として最も幸福な瞬間だった。こんな素晴らしい体験をできたのは、ただひとえに大川さんのおかげである。

Q.う〜ん、いいですねっ!!これぞ、まさに先人の言葉!でも、どうすればそんなラッキーな言葉に出会えるのですかっ?
 てめぇ、しまいにゃぶっ飛ばすぞ!!ラッキーなどと浅薄な表現を・・・・・これじゃ、余韻も何もないな。いいか、先人の言葉とは「処方箋」のようなものだ。言葉が良薬となり得るかは、その言葉を信じようとする自分の心の持ち方次第なのだ。また、その言葉を与えてくれる「医師」にあたる人物に敬意を払っているかどうか。そして「薬」そのものの力。それらが渾然一体となったとき、初めて言葉は“力”を持ち得るのだ。
 先人の言葉との出会い方は、たくさんある。私は人や本から出会うことが多い。我が国の文豪、夏目漱石の「こゝろ」やフランス作家アルベール・カミュの「太陽の讃歌」は、私の人生のバイブルともいえるものだ。自分の好きなことわざや故事成語などを書き出して、常に目に見える所に貼っておくのもいいだろう。単なる昔の言葉だと思うなかれ。これらもほかならぬ、先人の言葉なのだ。どうか耳を傾けてほしい。先人の言葉は、あなたのすぐそばにもある。あとは、あなたがそれに気付けるかどうかなのである。
 「言葉は心根につながっている」というのが私の信条だ
。無論、先人の言葉は彼らの心にもつながっている。だからこそ己と共鳴する言葉と出会えたとき、まるで先人に導かれるかのように、それが自分の進むべき道の指針になったり、傷を癒してくれる薬になったりするのだ。
 青臭くたっていい、五感を研ぎ澄まし真剣に生きてみることだ。そうすれば、血となり肉となる素晴らしい言の葉に出会えるはずだ。
 

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−近ごろのマエストロ−
講演をすることが多い私は、いつも“人に届く言葉とは何か”を考える。最近、改めて気になるのが、2001年に他界した稀代のシンガーソングライター・河島英五氏の歌詞だ。「酒と泪と男と女」や「時代遅れ」など名曲が数あるが、その中でも私が愛しているのが「旅的途上」である。





春はあざやか 菜の花畑で
雲などながめコップ酒
夏は星降る 浜辺に手まくら
波を相手に 旅の酒

人恋しさに飲んだ酒が
なお人恋しくさせる
年がら年中 恋焦がれ
人生 旅的途上

作詞・作曲/河島英五


河島氏の歌の魅力をひと言でいうならば、「整った自分を見せようとしていない」ところに尽きる。彼の郷里、大阪の言葉で言うなら「エエカッコしない」というところか。一切のてらいがなく、シンプルで温かい。私は車の中でよく「旅的途上」を聴く。口ずさみながら、このように潤いがあって、真っすぐな言葉を紡ぎ出せれば最高だ、といつも思う。
 

■皆さんからの質問待ってます!
仕事から家庭、恋愛、そしてファッションetc.・・・・・・、日ごろ読者の皆さんが抱える悩み、疑問など、相談したいことを何でも教えてください。マエストロ赤峰がズバッと解決いたします!少誌ホームページ[ www.oceans-ilm.com ]へアクセスのうえ、トップページ投稿してください。

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2009年04月24日(金)

OCEANS 6月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]

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マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛・・・・・・などなど。30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。そんな皆さまの“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆さんの質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に救いの手を差し伸べてくれるハズ!では皆さん、ご一緒に! 教えてっ、マエストロ!


今月のテーマ
“理想の友”

[今月の質問]
赤峰さん、初めまして。突然ですが、私の悩みを聞いていただきたく筆を執りました。私は現在36歳。都内の電機メーカーに勤める者です。実は私、この春に転職したばかりなのですが、職場の雰囲気になじめないのです。私の部署には社員が30名ほどおり、ほとんどが男性ですが、同世代の人たちは何かにつけて、集団で行動します。仕事でのチームワークは大事だと思いますが、仕事以外の飲み会でも昼食でもなんでもゾロゾロ・・・・。仕事に対する意見をぶつけ合うこともなく世間話で終わるだけの時間がどうも苦手なんです。私は仕事を通じて本当の友を得たいと思っています。だから、こんなぬるま湯のような関係にどうもなじめません。そんな僕は協調性のないダメな人間でしょうか?。(36歳・神奈川県在住・T.K.さん)

Q.そりゃ〜がんばらなきゃダメダメ!だって友達はとにかく数でしょ。いっぱいいるに限りますよ〜!ねっ、マエストロっ!?
 ばか野郎っ!!このアンポンタンめがっ!春になって頭の中にも花が咲いちまったようだな、まったく。
 では答えよう!この読者はいたってまともな男だ。私もときどき東京のビジネス街で昼飯を食うことがある。もちろん一人でだ。すると必ず5、6人で飯を食っている職場の同僚らしいグループと出くわすものだ。まあ、まったく興味はないのだが、会話が耳に入ってくる。するとどうだ。仕事の愚痴や上司への不満を言っているのはまだマシなほうで、ただ、自分の身の周りに起きたこと、昨晩観たテレビの内容をダラダラみんなに報告し合っているだけの集団もいる。周囲も空気を読んでかウンウンと相槌を打っているだけ。これは決して友達なんてものではない。単なる「知り合いの群れ」にすぎない。
 言いにくいことは言わず、場の雰囲気に合わせた当たり障りのないことだけを話している。私からすると不思議で仕方ないが、彼らは何らかの集団に身を置いていなければ、不安を感じるのだろう。ただ、そんな安直な動機から成立している群れが、仕事で力を発揮し得るはずはない。環境が少しでも変化すれば、バラバラになることは目に見えていよう。だから、そんな群れに入ろうと努力したり、疎外感を感じたりすることなどまったくないのだ。

Q.でも、友達は大事っスよ?なんらかの集団の中に属さないと本当の友達なんて、出会えないじゃないですか〜!
 この大ばか野郎がっ!お前はどうやら「知り合い」と「友達」を混同しているようだ。
 本当の友達を得たいならば、まずは線引きをしなくてはならない。私に言わせれば、前者は利害関係がある人間だ。そして後者はそういうものをいっさい抜きにしても、「一緒にいたい」と思う人間だ。昼飯を一緒に食わなければならない、飲みに行かなくてはならない、そんなことでしか継続できない人間関係は、ただの知り合いだ。
 「知り合い」と「友達」の違いは、衝突したり、何らかの危機をともに乗り越えたりすることで明らかになる。例えば私には、3つ下の親友がいる。彼は優れたパタンナーで、私が独立した30歳のころからの付き合いだ。当時、彼は部下だったが、私のやることが間違っていると思ったら、彼は遠慮なく噛み付いてきたものだ。最初はうっとうしいとも思ったが、会社を続けていくにつれ、こんな得がたい男はいないと思うようになった。簡単に先輩や上司に気に入られたければ、ただ阿諛追従(あゆついしょう)をすればいい。実際、ただ媚びへつらうような輩もいたが、自分がいざ危機に陥ったとき、そんな奴は何の力にもならなかった。だが、彼はどんなときでも自分の利害を抜きにして、私にぶつかってくれた。だから私もそのつど、彼に全力でぶつかった。殴り合いの喧嘩をしたことも一度や二度ではない。その後、我々は別々の道を歩んで30年が経つが、今なお盆と正月にはどちらからともなく会おうと言い出し、酒を酌み交わす仲だ。
 また、そんな友情には国境も関係がない。イタリアに二十数年来の親友がいる。彼はパンツ工場のオーナーで、初めて会ったときから、彼の律儀なもの作りに好感を持った。その後、彼は私の紹介によって日本でパンツを売ることになった。だが、彼の工場がミスをして、取引先に大迷惑をかけてしまったのだ。私はそのとき、彼を連れてお詫びに行ったのだが、そこで彼に土下座をさせた。日本での礼節を伝えたかったこと、彼のビジネスを成功させたかったことが理由だが、その時、ひどいことをしたかもしれない、と不安になった。しかし、彼は帰国後、こんな手紙をくれたのだ。「利害関係のなかったユキオが、オレと一緒に土下座をしてくれたことは、一生涯忘れない」。以来20年が経つが、彼は私がミラノに行くたび、2時間も車を飛ばして空港まで迎えに来てくれる。
 「嗚呼、人は困ったときにこそ、初めて本当の節義が見られるものだ」。唐の文人、韓愈は「柳子墓誌銘」にこんなことを書いている。苦難に向き合ったときこそ、損得勘定なく助け合える。それが本当の友達であり友情なのだ。
 

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(→)マエストロの口癖でもある「真剣に生きろ!」。その神髄を知るべく今月は、居合抜きの名流、夢想神伝林崎抜刀術の道場にて真剣を振るっていただきました。マエストロも初の真剣でしたが、その力強い太刀筋には、師範も舌を巻くほど。いかにマエストロが真剣に生きてきたかを物語る剣の冴えでした。「真剣は思っていたよりも数倍重い。しかも固く巻いた藁の束をこともなく切断する切れ味にも瞠目した。古の武士たちが、いかにひと振りごとに覚悟を込めていたかを思い知らされる」とマエストロ。その鋭い眼光は、真剣に劣らぬ“凄み”を感じます。

Q.な、なるほど熱い、熱いですね。ほとばしってますねぇ〜!でも、利害を考えないのなら仕事以外で親友を求める、そのほうが現実的なんですか?
 ばか野ろっ・・・・と言いたいところだが、なかなかいい質問でもある!
 大半の男は、仕事に人生の大部分を時間を費やす。そして言うまでもなく仕事はビジネス、つまり利益を追求する場である。しかし仕事であっても、利害を抜きにして、純粋に腕を認め合うことで生まれる友情もある。そして、これほど尊いものはない。
 それを教えてくれたのは、旭川にあつ縫製工場の主で、私と同年輩の職人であった。出会ったのは数十年前、私がグレンオーヴァーというブランドをやっていたときのことだ。当時、1mで1kgもあった極厚でヘビーウェイトのウール生地を入手した私は、この生地でダッフルコートを作るべく、日本中の名のある工場を回っていた。しかし、そんな厚手の生地を縫い上げるのには高い技術が必要で、手間も通常の数倍かかった。つまり儲からないから、どこも請け負ってくれなかった。数十軒の工場に断られ、最後にたどりついたのは、知人づてに知った旭川のサンケーソーイングという縫製工場だった。それまで見たなかでも最も高い技術を持った工場だったが、社長である川森さんも、やはり首を縦には振らなかった。ただ、彼は私を酒場に連れて行き、熱い酒を飲ましてくれた。その人柄にほだされた私は、いつの間にか親友にしか話したことのない服作りへの思いを語っていた。
 その後東京に帰ると、彼から電話があった。「50年経っても着られるヴィンテージの服作り。私にも手伝わせてください」。私はその後何度も旭川へ足を運んだ。そのたびに工場で川森さんとぶつかり合い、彼の奥さんに止められたこともしばしば。しかし、喧嘩の後は酒場で肩を抱き合い、朝まで語り合った。完成したダッフルコートは、私が知る限り世界最高の出来栄えだった。雑誌にも幾度となく紹介され、圧倒的な売れ行きを記録した。少量生産ゆえ儲けこそ少なかったが、私は心底うれしかった。数年後、ブランドは休止したが、私はことあるごとに、彼と酒を飲むために旭川へ行ったものだ。
 その後、互いに仕事が忙しくなり、18年ほど会っていなかった。そして7年前の一月、彼の妻から手紙が届いた。彼の訃報であった。葬儀は本日とのこと。私は翌日にイタリア出張を控えていたが、彼の顔が脳裏にちらつき、どうしても最後の顔を見てやらなくてはと思い、仕事着のまま、羽田に向かい旭川へ飛んだ。膝までつかる雪の中を革靴で進みながら、やっとの思いで寺に着いた。そのころ葬儀は終わっていて、会場は閑散としていた。
 私の目に飛び込んできたものは、ひつぎの横に飾られたあのダッフルコートだった。驚きのあまり言葉を失った。ひつぎの傍で着せつけられたコートは、20年近くを経ていたが、型崩れもなく、当時のままの風格を湛えていた。思わず熱くなった目頭を押さえながら、私は彼のひつぎに深く頭を下げた。
 私は彼の腕に惚れ、彼は私の熱意を認めてくれた。だからこそ、互いに利害を度外視し、一切妥協のない仕事ができた。私は仕事で最高の友と出会い、最高の仕事ができたと思う。彼も同じように感じてくれたからこそ、コートをあの世へ持って行ったのだろう。
 仕事に対する姿勢や腕前を認め合い、高め合える。これこそ私の考える理想の友であり友情のひとつのかたちだ。おそらくそんな友は生涯で5人もいれば十分だろう。量より質。そのためには、常に本音で生きよ。会社の仲良しサークルに満足しているだけではいけない。今からでも遅くはない。ぬるま湯に浸かるのをやめて、一歩を踏み出せばよい。そして、生涯の友を探すのだ。
 
 

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−近ごろのマエストロ−
最近、敬愛する池波正太郎氏が愛した江戸の味を巡るのに凝っている。氏の愛した味をたどりながら、その生き様に思いをめぐらせる。単なる真似でしかないのだが、店で静かに料理を味わっていると、池波氏の哲学、感性に触れる思いがする。そもそも「学ぶ」の語源は「真似る」にあるという。もし、誰かの生き方に憧れを覚えたなら、その人物の生活を真似ることから始めてはいかがだろう。かつて能の大成者、世阿弥も芸の基本を「物真似」に置いた。デッサンがうまくいけば、後は自分なりの色をつけていけばいいのだ。スタイルの確立は、真似から始まるのである。

■皆さんからの質問待ってます!
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日・伊・英、スーツ3賢人が伝授する「スポシック」の極意! [OCEANS掲載記事]

キチンとしているのに、どこか夏らしい涼感が漂う装い。
それが「スポシック」の要諦だ。では、業界の賢人はどのような装いをするのか?
日本、イタリア、英国、各国を代表する三賢人の卓見を伺う。



日本代表スーツ賢人
赤峰幸生

「本質を失った“クールビズ”に惑わされるな」

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赤峰氏が夏の装いに選んだのは、意外にもブラウン。「こうした淡い茶色を、大正から昭和初期の洒落者たちは、夏に好んで着たものだ」。一見、貫禄十分なダブルブレステッドだが、着てみると生地はリネンで涼しく、実に軽い。「見た目が涼しいだけでは、ビジネスに何の恩恵ももたらさない。アイリッシュリネンはふんわり軽く、肌触りも心地いい。それでいて適度なコシがあるから、汗をかいても型崩れしない。また、Vゾーンにはコットンピケのシャツを、足元にはウィングチップを選ぶことで、スポーティな要素が加わる」。視覚的な涼しさだけに捕らわれず、肌の感覚とエレガンスを重視する。こんな「スポシック」な装いが、氏の信じる“クールビズ”なのだ。
 

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(→)淡いブラウンで統一したエレガントな涼感スタイル

スーツ生地は、老舗アイリッシュリネンメーカー、スペンス・ブライソン社のものを使用。ウエストを若干絞り、ほどよくモダンに仕上げた赤峰氏オリジナルスタイルだ。同系色のタイは1930年代の柄を復刻したもの。シャツは白のコットンピケ、足元はダブルソールのウィングチップを選び、スポーティな雰囲気を加えた。シャツ参考価格2万8875円、タイ参考価格1万3650円/アカミネロイヤルライン(インコントロ)、ほかすべて本人私物

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2009年03月24日(火)

OCEANS 5月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]

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マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛・・・・・・などなど。
30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。
そんな皆さまの“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆さんの質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に救いの手を差し伸べてくれるハズ!
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今月のテーマ
“悩み力”

[今月の質問]
赤峰さん、初めまして。いつもこの連載を楽しんで読ませていただいています。実は今回、私も迷いがあってペンを執らせていただきました。その悩みというのは、やはり自分が勤めている会社のことです。社員数約300名の車の部品メーカーなんですが、最近、不況の煽りを受けて、月給の額が激減してしまいました。正直、上司もいい方ばかりだし、仕事のやりがいはあります。赤峰さんも「金だけで仕事を選ぶな」と以前おっしゃっていました。ただ、私は今31歳で、これから結婚もしたいし、車だって欲しい。贅沢は言いませんが、人並みの生活はしたいと思っています。ですので、転職すべきか副業すべきか、最近そんなことばかり悩んでいます。(31歳・愛知県在住・K.M.さん)

 

Q.トホホ、最近暗い話ばっかり!どうせ現実は変わらない!悩んでばかりいないで、悩みなんていっそ忘れましょう!悩むだけソンソン♪ねっ、マエストロっ!
 ばっか野郎!!このおたんこナスが!今月もいきなりぶっ飛ばしてきやがったな。お前のような脳内常夏野郎のために今一度言うが、この度の不況は1945年の戦後の恐慌と同レベルのものだ。言っておくが、「恐慌」と「不景気」は違うぞ!
 恐慌とは、需要の急速な低下や物価の下落、企業倒産、失業が急激かつ大規模に生じ、一時的に経済活動全体が麻痺することだ。つまり、今この時代は文字どおり経済における「パニック状態」なのだ。
 この状態の恐ろしさは、先がまったく読めないことにある。我々はビジネスを行うとき、ともかく予算を立てるだろう。いくら仕入れて、いくら売り上げが見込めるか・・・・それは多くの場合、前年比やこれまでのデータの積み重ねから立てていく。しかし、その基準が無意味化するのが恐慌だ。気分転換して悩みを棚に上げ、あわよくば忘れ去る、では済まされない。それでは、単なる問題の先送りにほかならない。現に今回の投稿者のように、具体的に生活に影響が表れている。だから、こういった手紙が増えているのだ。

Q.ひゃ〜、じゃあなんとかしないと!やっぱり流行りの副業なんかを始めないとヤバいっすよ!
 てめぇ、このうすらとんかちが!毎度毎度、安直なものの考え方をする野郎だっ。副業したい奴はすればいいだろう。が、私は「原点に戻る」ということをこの読者に伝えたい。原点に戻るということは、すなわちすべてをゼロに戻す、ということだ。それにはまず、自分の年収の額は誰が決めているのかを考えることだ。
 よく若い男の中に、自分よりできない奴がほかの会社でいい給料をもらっている、といった愚痴を口にする奴がいる。しかし、そいつがその「多い、少ない」を決める基準は何だ?そもそも自分がもらっている額は多いのか、少ないのか、それを判断する材料とは、誤った基準にすぎなかったと心得よ。会社が持っていた基準、周囲と比較しての基準・・・・いろいろあるが、その基準のほとんどが今、幻となりつつある。今回の投稿者の言う「人並みの生活」という基準も消え失せたのだ。つまり、当たり前だと思っていたことを、改めて見直す必要が生じてきたのである。

Q.た、確かに今まで持っていた収入への価値基準って、なんとなく・・・・でした!じゃあ、マエストロ!いったいどう生活すれば?
 これまでの生活を見直し、シンプルに削ぎ落としていくことだ。例えば、私はよく周囲から、たくさん服を持っていると思われる。しかし、実際にクローゼットを見せると、その少なさに驚かれる。そう、私はこんなときいつも思う、豊かさと男のお洒落は、金品の多寡にあらずと。
 私は何年かに一度、スーツを仕立てるが、その際は飛びっ切りいい生地を使う。いい生地といっても、薄く滑るような生地ではない。打ち込みのしっかりした味わいのある生地で、仕立ても色も流行に左右されないシックなものを選ぶ。こんなスーツを何十年もかけて着続ける。服に限らず、このような私のスタイルは生活全般に通ずる。
 こんな価値観を私が持ったのは、父の影響もある。学者だった父の生き方は、質素そのものだった。印象的なのは幼少のころ、父がいない間に書斎に忍び込み、たくさんあった鉛筆の中から、小さくなった鉛筆を勝手に持ち出したことがある。が、父は帰ってくるなり、即座にその鉛筆がなくなったことに気付いた。もちろん、こっぴどく叱られたよ。父の洋服はいいものを仕立てていたが、控えめな色やデザインのものばかりだった。10年以上着続けるためにだ。そんな姿を見て、子供ながらにある種の格好よさを感じた。英国には、万事控えめを美徳とする“アンダーステイトメント”の美学があるが、あれは長く使うという英国流の質素にも通じる。
 私は常に必要最低限のものを見極め、自分のワードロープを管理している。過剰なもの、必要以上に華美なものは、私のクローゼットにはない。必要に応じて、長く着られるものだけを買う。すると、時代がどうなろうが、自分のスタイルが貫ける。
 

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(→)マエストロの言葉にもあった「恐慌」。頂の見えない“急な坂”をトボトボと上り続けているような、このやるせない感覚。いやぁ、まったく暗い世の中ですな。・・・・・なーんてうつむきながら歩いていたら、その“急な坂”を信じられないようなスピードで駆け上がる男性がいるではありませんか!しかも、あれは間違えなくママチャリ!!そうです!その男性とは、何を隠そう我らがマエストロ!上り坂をものともせず、涼しい顔!?で駆け抜けるマエストロ。我々もマエストロのように、上を向いてしっかり悩み、前進しようではありませんか!

Q.いやぁ、なるほど〜。でも、現状の生活レベルは守りたい!友人の目だってありますし・・・・
 お前はなんてしょっぺぇ野郎だっ!!薄っぺらい価値観の男だ。そんな考え方をしていると、見栄を張るために借金を重ね、いつか身を滅ぼすことになる。世の中に勝ち組・負け組という言葉があるが、私は大嫌いだ。第一その勝敗の基準はなんだ?
 前回も言ったが、ワケのわからんトレンディドラマに出てくるようなマンションに住み、高級車に乗ってる奴が勝ちなのか。そんな無責任かつ適当極まる価値観などまったくもってくだらん!トルストイはいみじくも書いている。「幸福な家庭はみな似通っているが、不幸な家庭は不幸の相も実にさまざまだ」。日本人はただでさえ行列を好む性質だ。だが、そんなふうに他者と同じ状態でいることを幸福や人並みと考えるから、自分が恵まれない、と思うのだ。不幸のほとんどは比較から始まるが、その基準が金品だけのものなら、幸か不幸かを考えること自体が実にばかばかしい。
 私は28歳で己の才覚を世に試そうと会社を飛び出した。アパレルの会社を立ち上げ、不眠不休で働いた。ハイエースに服を詰め込んで、全国の小売店に持ち込んでいた。横浜から静岡、京都、和歌山、岡山、車中泊を繰り返しながら全国を巡った。夜は工場を開けてもらって生地を仕入れるんだが、暗闇の中、ライターの明かりで生地を選んだ経験は忘れることができない。
 ちょうどそのころ、私は己にある戒律を設けた。それは、「見栄を張らない」ということだ。その後、徐々に会社は大きくなったが、その戒律だけは守ってきた。バブルの時も派手なことは一切せず、逆に質素に徹底した。だから、その後、同業他社が倒産していったなかでも、生き残ることができたのだと確信している。それに今だって、20代でやっていたことと同じことをしなければならなくなったら、私は明日からだってできる。自分らしく生きるために必要なものは身の回りに揃っている。借金だって、一銭たりともない。つまり、私は自由なのだ。それにそんな私の姿を笑う周囲の人間もいないからな。この読者に私は言いたい。「自分の生活に無駄や見栄はないか」と。そして彼の言う「人並みの生活」とは何かと。それで生活ができるなら、転職や副業などは考えずに、今の仕事を大切にしてほしい。
 そもそも最近、金銭面の理由で今の仕事に迷いや悩みを持っている輩が多すぎる。もちろん、私だって昔は同じような悩みを持ったことがあった。そんなとき、恩師がある言葉をくれた。「赤峰よ、20代はアリになれ。30代はトンボになれ。40代になったら仕事をしろ」と。20代はアリのように地面を這い回り、仕事の基礎を覚え、足腰を鍛える。そして30代はトンボのように飛び、広い視野という複眼で世の中のあり方を見つめる。それができれば、40代で本物の仕事ができるというのだ。
 世の中ではIT長者や株で儲けた“にわか成金”の華やかな生活がよく取り上げられるが、そんなものに影響を受けるのは愚の骨頂だ。最後に残るのは、自分で考え、自分のスタイルを貫いた本物だけだ。服で言うならば、50年を超えても愛されるヴィンテージというところか。そんな味のある男になれるよう、悩みから目をそらさず、時代をとことん悩み抜け!そうやって、悩み抜いた者が最後には笑う、私はそう確信をもって言いたい。
 
 

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−近ごろのマエストロ−
先日、英国に足を運んだときのこと。ある雨の日の夕刻、コロンビ(コート地の名門店)で生地を物色していたら、店に入ってきた白髪の紳士に声をかけられた。「あなたは私を知らないが、私はあなたをよく知っている」。名をマイケル・オールデン氏という。年のころは60前後であろうか。彼はヴィンテージの生地をモチーフに自ら生地を作っているという。2日後、パリのホテルで再会する約束をした。そのとき、彼の生地を見せてもらったのだが、まさに目から鱗が落ちる出来栄えであった。柔らかくてコシがあり、色も品がよく申し分ない。そして何より、彼のインテリジェンス、ものに対する考え方が滲み出ていた。久々に出会えた“ア・ファット・ア・マーノ(手仕事)”な思考の持ち主だった。我々は意気投合し、彼は初夏に日本にやって来ることになった。仕事となるかは別にして、こんな人間と出会えるから、仕事はやめられない。改めてそう思った。
 

■皆さんからの質問待ってます!
仕事から家庭、恋愛、そしてファッションetc.・・・・・・、日ごろ読者の皆さんが抱える悩み、疑問など、相談したいことを何でも教えてください。マエストロ赤峰がズバッと解決いたします!インターネットの場合は[ www.oceans-ilm.com ]へアクセスのうえ、「NEWS」から投稿してください。郵送の場合はハガキに @相談したいこと A氏名(ふりがな) B住所 C年齢 D職業 E電話番号 Fメールアドレス Gオトナ相談室への感想 を明記し、〒162-0825東京都新宿区神楽坂6-42 オーシャンズ編集部「オトナ相談室」係まで。

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2009年02月24日(火)

OCEANS 4月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]

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マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛・・・・・・などなど。
30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。
そんな皆さまの“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆さんの質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に救いの手を差し伸べてくれるハズ!
では皆さん、ご一緒に! 教えてっ、マエストロ!


今月のテーマ
“褌”

[今月の質問]
赤峰さん、はじめまして。毎月、熱のあるお言葉、心に染み入ります。実は私もぜひアドバイスをいただきたいことがあるんです。それは「転職」です。今勤めているのは、新橋にある商社で、電器部品を扱っています。社員は150人ほどです。しかし我が社も例に漏れず、この不況を煽りをまともに受け、50代の社員がどんどんリストラされています。私はまだ30代ですが、「次は私かも・・・・」と考えると不安で仕方ありません。やはり今のうちに大きな会社に転職したほうがいいのだろうかと悩んでいます。そうすればもっと収入だって上がるはずでしょうし、すぐにリストラされたりなんてこともないはず。やっぱりこんなご時勢ですし、背に腹はかえられないと思うんです。そんな生き方について赤峰さんはどう思われますか?(32歳・神奈川県在住・商社勤務・U.M.さん)

Q.この悩みは超簡単!僕でも答えられます。そりゃ“するべき”。大きい会社や組織のほうがやっぱり将来的にも安泰!ですよね、マエストロッ!
 てめぇはっ!もうつける薬のない大ばか野郎だ!おまえのようなやつが真っ先に時代のうねりに飲み込まれるんだ。この世界的な不況を見ろ!バラク・オバマ大統領も言うようにもうすぐ「新たなる責任」を求められる時代がやってくる。これは国家も企業も、個人も同じだ。誰かに“おんぶにだっこ”でなんとかなる時代はとうに終わった。今後、日本も経済などあらゆる面で自立を求められるだろうし、企業でも個々人の能力に対して報酬を払う能力主義が進んでいき、その格差はどんどん広がるだろう。こんな時代、間違いなくスポイルされるのは、個人で責任を持とうとしない輩、そしてロクに仕事もしないのに会社組織の中で踏ん反り返っている輩なのだ。だからオレは、あえてこの読者の彼に言っておきたい。他人の褌で人生を送っている奴は、いずれその精算を迫られる、ということだ。転職もいいだろう。だが、給料や会社のネームバリューだけを理由に転職しようとしている輩がいるとするなら、それは赤の他人の褌を欲しがっているのと同じことだ。本当に重要なのは、褌そのものではなく、その中に収まっている“玉”なのだ。この玉を鍛えるような仕事をしろ、とオレは言いたい。そうすれば、リストラにも不安を感じないはずだ。

Q.でも、収入は絶対大事だと思うんですよ。同じ量の仕事をしてても、自分の給料が安いなんてなんか損な気が・・・・・。
 てめえはもう家に帰って寝てろっ!この超弩級のとんちんかんめが!では今、転職して少しばかり収入が上がったとする。しかしそれで、いったい生活にどれだけの変化があるんだ?最低限、家族や親の面倒を見なければならない、夢のために貯金したい、そんな高尚な目的があるならいいだろう。でも、おまえのような輩の場合は、ちょっと収入が上がったとして、見かけ倒しのデザイナーズマンションに住んで、夜はワケのわかんねぇレストランで擬い物のイタリアワインを飲む。クルマは見栄えだけで選んだ故障ばかりの中古のポンコツ。そんな薄っぺらな生活が関の山だろう。ちっぽけな価値観のために、転職に血道を上げたり、人を嫉妬するのなら、まったくもって人生の無駄だ。そんな男は、金ぴかの褌を巻いて、肝心の“玉”はナヨナヨ、みたいなもんだからな。いずれメッキは剥げる。
 それにいいか、確かに報酬は大事なものだ。だがな、男が仕事を選ぶとき、収入のことは二の次に考えろ。あの早世した俳人、正岡子規は、どの新聞社に入ろうかと迷っていた後輩にこんな言葉を残している。「人の偉さをはかるのに、ものさしはたくさんある。でも、いちばん偉いのは、少ない給料でいっぱい働く人間だ」とな。だからこそ彼は、墓石に安月給だった自分の収入額を彫り込んだんだ。つまり、彼は給料なんかどうでもいい、いい仕事とは詰まるところ、人のためにどれだけ役立つか、だと考えていたんだ。また、ユダヤの富裕層の間にも、こんな考え方がある。「収入は社会に対する自分のサービスの対価である」というものだ。オレが言いたいのはな、いい褌が欲しい、と思う前に、まず己の玉の質を問うてみよってことだ。そうでなければ、「やっていてよかった」と魂が震えるような仕事は絶対にできないのだ。
 

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(→)日本が誇る日本男児として、“大和魂”を宿すマエストロ。この日は、なんと和太鼓を使ってするエクササイズ“太鼓ビクス”に挑戦している姿をパチリ。和太鼓教室内にほとばしるマエストロの汗は、キラキラと輝いていました。男女問わず人気のこのエクササイズ、ぜひ挑戦してみたいという方は「TAIKO-LAB」にお問い合わせください!TEL 0120-979-447 東京都渋谷区神宮前3-1-30 コンセプト青山B1

Q.なるほどっ!相変わらず熱いですねっ!でも、肝心の“玉”を磨くにはどうすりゃいいんですかっ?早く教えてくださいよ〜!
 ばか野郎っ、てめぇはいつも手短に答えを知ろうとする。本当に大ばか野郎だ。とはいえ、読者の方も知りたがっているだろう。それでは、望みどおり教えてやろう。
 まずは、生活面だが、自分が世界中でたったひとりの自分自身であることを貫くこと。オレは昔から何事をするにも、人がやっていることをまねしたり、参考にしたりしなかった。自分が着たい服を着て、食いたいものを食い、読みたい本を読んできた。トレンドを追いかけるなんてもってのほかだ。例えば、レストランで注文をする際、「オレもそれと同じでいいや」なんて言ったことは生涯一度だってない。行住坐臥(人の起居動作の根本である、行くこと・とどまること・座ること・寝ることの四つを意味する)、当たり前の営みであるが、それを積極的で主体的にすることができれば、自分の個性が次第に高まっていくはずだ。ただ、ここ日本では、そんな当たり前のことをすることさえままならない。自分本位な行動には「空気を読まない」などと陰口が叩かれるようだ。しかし、だからなんだ?よく考えてみろ。どうしてもそう言われたくないなら、そいつらと同じことをすればいい。だがな、そんなことで陰口を叩く輩は仕事ができると思うか?女にモテるか?オレに言わせれば、答えは間違えなく「ノー」だろう。オレは違うぞ。何が何でも這い上がってやるというなら、どんな小さなことでも自分を貫いてみろ。間違いなくそいつは伸びる。目的を達成するためなら、人目を気にせず突き進む。だから、仕事もできるだろうし、女にだってモテるはずだ。だがな、あえてこう言いたい。男なら空気を読むな!波風を立てて生きてみろ!それが、男ってもんだ。
 そして次は仕事面だ。オレは昔、イタリアで出会った老テーラーに教えてもらった言葉をことあるごとに反すうしている。「いい仕事をする秘訣だって?“ア・ファット・ア・マーノ”(自分自身の手で作ること)さ」。オレはいまだに年賀状を直筆で書く。手紙だってそうだ。もちろんパソコンが不得手ということもあるが、やはり手の仕事ほど、相手に愛情=誠意を伝えられるものはない。企業コンサルタントをしていて、レポートを提出してもらうこともあるが、必ず手書きのものを提出してもらう。なぜなら、そのほうが相手の仕事に対する考え方もわかるからだ。
 だが、それだけじゃない。ずっと後のことだが、“ア・ファット・ア・マーノ”は、単に手作業の素晴らしさだけを語っているものではないとわかった。自分の手で、誰よりもいいと思える仕事をすれば、自分がここにいる意義がわかってくるということだ。「自分以外には誰にもできない仕事の質」を追求するのだ。テーラーだろうが、政治家だろうが、コンビニのアルバイトだろうが、職種なんて関係ない。これが男として何よりも大きな自信になる。
 生活面と仕事面において、このように努めれば、人の褌なんてものは必要ないはずだ。自分自身の褌に、しっかりと箔がついているはずだからである。

Q.な、なるほどっ!眼が覚めました!ところでマエストロの下着は、どんななの?やっぱり褌・・・・ですよね?
 また話を茶化しおって!ばかという言葉に失礼なほどばか野郎だな、おまえは!ただ、男にとって下着は大切なものだ。褌ではないが、オレは白い布帛のトランクスをはいている。お前らがはいているような軟弱なブリーフではない。ハリのいい純白のコットンだ。フィレンツェにあるなじみの下着店で買ってくるんだが、真っ白いこのトランクスに脚を通すたび、実に清々しい気持ちになる。戦国時代、武士たちは戦の前には必ず真っ白い褌を締めたという。これは討たれて具足を剥がされたとき、醜態をさらさないためだった。そう、男は真っ白い自分の褌で生きることができれば、どんな時代であっても、恐るに足らない。他人の褌で相撲をとるようなまねをせず、己がぶら下げている“玉”の質で勝負するのだ。
 ただ、それを心がけさえすれば、己の道に敵はない。
 
 

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−近ごろのマエストロ−
最近、とみに人との出会いが貴重に思えてくるようになった。とはいっても仕事ではない。屋台のオヤジやタクシーの運転手、風呂屋で出くわした知らないオヤジ。こんな方々とよく話をする。人はこういった方々とは生活の中で触れ合ってはいるのに、なかなか話をしていないのではないだろうか。しかし、いざ、自分の心を開いて話をしてみると、ハッとする意見や役に立つ話に突き当たることがしばしばある。ときに思わぬ人の観察眼が新鮮に思えることがあるものだ。宮元武蔵の言葉に「我より外に師なし」という言葉がある。この言葉も含蓄があるが、やはりオレにとっては、中国の「我以外、皆我師なり」という言葉が身に染みるというものだ。

■皆さんからの質問待ってます!
仕事から家庭、恋愛、そしてファッションetc.・・・・・・、日ごろ読者の皆さんが抱える悩み、疑問など、相談したいことを何でも教えてください。マエストロ赤峰がズバッと解決いたします!インターネットの場合は[ www.oceans-ilm.com ]へアクセスのうえ、「NEWS」から投稿してください。郵送の場合はハガキに @相談したいこと A氏名(ふりがな) B住所 C年齢 D職業 E電話番号 Fメールアドレス Gオトナ相談室への感想 を明記し、〒162-0825東京都新宿区神楽坂6-42 オーシャンズ編集部「オトナ相談室」係まで。

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各界で活躍する「男クサイル」たちに聞く!!男臭く格好よく生きる男の条件 [OCEANS掲載記事]

 「男クサイル」な男の条件

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其の壱. 自分に厳しくあること!
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其の弐. 直球、ど真ん中に、正直に生きること!
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其の参. 生涯、ガキの心を忘れないこと!
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スタンダード(ど真ん中)を守りながらも、遊び心(ガキの心)を持っていること。赤峰氏の条件が意味するのは、ファッションに置き換えれば「王道を理解したうえで着崩す」ことだ。「服を自分のものにするためには、まず基本がわかっていることが必要。それは人生でも同じで、男は一本の真っすぐな道をいかに歩いて行くか。そのうえで、ガキの心を持って、楽しみながら生きられてこそ「男クサイル」なのだ」
 その覚悟が決まった男は、いわば必殺仕置き人。男のなかの男だ。

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2009年01月24日(土)

OCEANS 3月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]

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マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛・・・・・・などなど。30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。
そんな皆様の“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆さんの質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に救いの手を差し伸べてくれるハズ!
では皆さん、ご一緒に! 教えてっ、マエストロ!


今月のテーマ
“格好いい男”

[今月の質問]
いつも「オトナ相談室」を楽しませてもらっています。赤峰さんは私の心の師であり、そのお考えに心が大きく揺れ動かされること決して少なくありません。そこで、私がお聞きしてみたいのは赤峰さんがお考えになる“格好いい男”とはいったいどういう男なのか、ということです。雑誌に掲載されているようなお洒落ができるようになること、それはもちろんそのひとつだと思います。しかし、“生き様”とでも言いましょうか、もっと根本的なところでお伺いします。見せかけのそれとは違う、男の本当の“格好よさ”を教えてください。(37歳・東京都在住・商社勤務・T.T.さん)

Q.いやぁ、熱い熱いっ!この方の熱意は半端ないですね。しかしマエストロの布教活動もようやく実を結びつつありますね。では、早速。マエストロがオトコマエな理由を教えてっ!
 てめぇはこのお調子者が!オトコマエだと?確かにそれは誤りではないがお前はいつだって的を外しているようなもの言いだな。せっかく投稿してくださったこの方に失礼だろうが!お前のような輩には、この投稿者の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよ、まったく。耳の穴をかっぽじって聞きやがれ、この痴れ者が!
「格好いい男とは何か」。この質問は、私自身も30代のころ大いに悩んだ。20代は周りが見えず、ただ自分が正しいと思う道をがむしゃらに突っ走った。今にして思えば、それは強烈なエネルギーだった。今のようにインターネットはなかったから、旺盛な好奇心を満たすために、自分の目で見て、自分の耳で聞き、自分の足でどこへでも出向いた。今の若者は机の上で何でもわかったように勘違いをしていやがる。インターネットで知り得たことは、結局、架空の知識、経験にしかならない。パソコンは便利な道具ではあるが、便利であるがゆえに喪失していることも多い。本来、道具にすぎないパソコンが人に支配されているかの如し。そして、そのことに気がつかないことが非常に問題だ。何事も自分の目で見て、耳で聞いて、頭で考えてこそ、初めて己の血肉となる。自らが主体的に行動できること、こんなことはもはや語るべくもないだろう。人は人との出会いによって磨かれてゆくものだ。そういう意味では、憧れを抱くような男性が周囲にいるだろうか?かつての私にはそんな大人の男が身の周りにたくさんいた。無論、彼らは必ずしも有名人ではなく、八百屋の店主であったり、近所のオヤジであったりとさまざまだった。そうした大人の格好よさにしびれ、そこに早く近づきたいと願った。30代になってから、その思いはいっそう強くなった。今の若者はいつまでも若いままでいたい、年をとりたくないと言う。私に言わせれば、信じられない思いだ。かつての私は、一刻も早く大人になりたかった。大人とは自分の“生き様”を身につけた者のことだ。私はこの“生き様”こそが「格好いい」の源泉となると信じている。30代はそれまでの己と真っ正面に向き合う年代だ。そして、次第にそこに磨きをかけ成熟させていく時期とでも言えようか。投稿者の方はそれに気付いている。皆さんも、見せかけの格好よさから“生き様”を見出すことなど永劫かなわぬと心得てほしい。

Q.なるほど!さすが男の中の男。その言葉が既に格好いいっ!ビリビリしびれちゃいます。でも、まだよくわかりません。もう、早くヒントくださいよ〜っ!
 ・・・・。て、てめぇっ!この大うつけものが!お前の軽薄な言葉は、聞いているだけで虫唾が走る。いったい、どういうつもりでオレの話を聞いてやがる!まったく馬の耳に念仏とはこのことだ。私もお前のくだらない言葉には乗らず、ただ受け流すことにしよう。まぁ、とはいえお前にも私の言葉が響いていることだけは確かなようだ。あなたの「格好よさ」を生み出す源は、あなたの“生き様”にある。しかし、、理想の“生き様”を教えてくれるマニュアルなんて、あるはずもない。それこそ、十人十色だ。憧れを抱く大人が少ないと誰もが感じるこの時代で、お手本とすべき人を探し出すのも至難の業であろう。成熟したいと願う男にとっては、理想なき不遇の時代なのだ。だからこそ、あえて私なりの“生き様”を表現するなら、そこには2つの信条があると言える。それが、「挑戦」と「継承」。己の生き様において、この2つを主とすることだ。そうすることで私は常に己を高め、男の「格好よさ」を追及しているつもりだ。
 

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(→)年が開け、ご自宅の近くの等々力不動尊にて初詣するマエストロ。スーツ同様に着物をこよなく愛するマエストロは、その着こなしも見事。スーツ姿のときと同じく、得も言われぬ貫禄を放っておりました。大不況の中で迎えた2009年、マエストロはいったいどんな祈りをささげたのだろうか。

Q.出ましたキーワードッ!ずばり、「挑戦」と「継承」。これがマエストロの考える理想の“生き様”に、欠かせない信条なのですねっ!
 ・・・・・。お前のその軽いノリがどうも好きじゃないが、そのとおりだ!私なりに考える格好いい男の“生き様”は、「挑戦」と「継承」という2つの信条によるものだ。
 まずは「挑戦」。これは常に現状を否定し、ときには非難する意識と言ってもいい。常識や既成概念という名の前提を疑うことでもあろう。そして、「自分とは何者か」と常に問い続け、己を極めていくことに邁進していくのだ。好き嫌いもはっきりして大いに結構だ。しかしながら、現代の若者には“ことなかれ主義”が蔓延し、矢面に立たされることを嫌う。争いごとなどもってのほかだという意識が強い。なんとつまらない男だろうか。なんと味気ない“生き様”であろうか。私は世の中のことから身近なことまで、さまざまなことに腹を立てる。そして、腹を立てたらその気持ちを決して溜め込まない。表に出す。なぜなら、その苛立ちこそが、私の大儀であるからだ。大儀のためならケンカだって厭わない。そうやって、自分の正直な気持ちに対峙しながら、次の行動に移していく。ただ、おとなしいだけの、人当たりのいい男はツマラナイであろう。一度きりの人生だ。己が正しいと思えばそれを信じる。そうやって「挑戦」のために戦い、生きることが「格好よさ」に通じるのだ。私は服飾業界においても、そうやって戦い続ける。この戦いは私の大儀であり、世直しなのである。
 ふたつめは「継承」だ。「継続」と言い換えてもいいかもしれない。長く続いているもの、続けていることには、相応の魅力がある。例えば、老舗と呼ばれる店には風格がある。先達の作り上げたものを受け継ぎ、それをまた受け継いでいく。ヒットセラーではなく、ロングセラー。永々とした営みにこそ、本質とはそういう営みのなかに宿るものだ。少し前はベンチャーだのと言って、金儲けが目的の会社がメディアに多く取り上げられ、時代の寵児などと謳われていた。どうだ。不況を迎えたら、地に足がついていなかった会社はあっという間に吹き飛んでしまった。何でもかんでも老舗がいいというわけではないが、じっくりと深く地に根を張ったその“生き様”には「格好よさ」を見出すことができよう。人も同じである。蛇行することのない、芯の通った己を作っていくことが大切なのだ。仕事であっても、一貫した理念に基づくべきだ。職業や年齢などまったく関係はない。何のために働くのか。どうなりたいから働くのか。人の役に立つことの営みが仕事の本質だ。そういう仕事を継続して、どう自己実現するかが大切なのだ。「自分とは何者か」を問い続けることは、ここでもやはり欠かすことができない。

Q.これぞ「格好いい男」の“生き様”!・・・・とはいっても、見た目も大事!ということで最後に、そんな男にふさわしい装いをどどーんと教えてくださいな!
 ・・・・・。では、“ドン”とその哲学をお教えしよう。ひと言で言い尽くすなら、男の服は「変わらない」ということだ。どんな服を着ているかで、値踏みされることはある。しかし、高い服を着ればいいってものではない。装いとは教養でもある。きちんと服を着ることはマナーであり、紳士とは服装でマナー違反はしないものである。そして、紳士とは名刺などなくても、服装で一目置かれる存在である。服をとっかえひっかえするようでは道化師も同然。イタリアではそんな男を「パルティコラーレ(=少し風変わり)」と言う。まあ、でもそれは序の口だ。トレンドという商売に完全に乗せられてしまったチグハグな服を着ていたならば、「ストラーノ(=変わってる)」とか、もっとひどい呼ばれ方では、「ブルッタ(=醜い)」とさえ言われてしまう。流行に惑わされるのは、世の中から取り残されたくないという焦燥感に起因する。そして焦燥感の源はほかでもない、自分に自信がないからだ。流行と付き合うときは、「咀嚼」をしなさい。自分にふさわしい流行かどうかを取捨選択しなさい。そのためには、まず衝動買いはしない。どれくらい長く着られるか、経済性をふまえた買い物をすることだ。すぐに着なくなるものを購入することは、店にとって好都合な客。私に言わせれば、ただのばか野郎だ。
 紳士にとって、いつも同じような格好をしていると思われることは、望ましいことであり、賛辞を受けているに等しい。イタリアではそういう装いの男性を「ジェンテリッシモ」という。上品でありながらも骨太、しっかり自分のスタイルを持つ男性に送る賛辞だ。「格好いい」服装とは、そういう形容にふさわしい。先ほど言った「流行の咀嚼」。これは、自分の軸となるスタイルを持ったうえで、時代ともうまく折り合いをつけることだ。私はクラシックなアイテムが揃うワードローブの中であっても、今着るもの、今着ないものに分ける。クラシックなアイテムのなかにも「時代感」つまり「今っぽいかそうでないか」があるのだ。その年ごとにワードローブを一軍と二軍にわけ、時代とうまく折り合いをつけること。これは私の装い流儀でもある。
 刹那的に生きるのは20代。その歳頃であれば、流行に飛びついて、さまざまな服を経験することもいい糧となろう。しかし、30代になったら10年後を見据えた服選びをしなさい。男の“生き様”は服装にも如実に現れるものだ。まずは失敗を繰り返しながら30代で着こなしの基本となる楷書体を身に着け、40代で行書体という段階を経て己のスタイルを確立していく。そうやって、究極的には本当に自分らしい、草書体とでも言うべき装いにたどり着ければ、なんと素晴らしいことであろうか。
 
 

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−近ごろのマエストロ−
昨年、12月21日に横浜の信濃屋にてトークイベントを行った。信濃屋の創業は1866年。私も古くから通い続ける顧客のひとり。日本初のセレクトショップであり、日本の洋装の歴史は信濃屋の歴史に重なる。トークイベントの後には場を移してパーティが催されたが、訪れた方々の服装は、まさしく「ジェンテリッシモ」であった。信濃屋に敬意を払っていることの現われでもあり、ジェントルマンズクラブと評されるような集いとなった。クラシックという名の本質を継承してきた店の素晴らしさを実感した。これから装いの熟成度を上げていかんとするオーシャンズ読者には太鼓判の店であろう。

仕事から家庭、恋愛、そしてファッションetc.・・・・・・、日ごろ読者の皆さんが抱える悩み、疑問など、相談したいことを何でも教えてください。マエストロ赤峰がズバッと解決いたします!インターネットの場合は[ www.oceans-ilm.com ]へアクセスのうえ、「NEWS」から投稿してください。郵送の場合はハガキに @相談したいこと A氏名(ふりがな) B住所 C年齢 D職業 E電話番号 Fメールアドレス Gオトナ相談室への感想 を明記し、〒162-0825東京都新宿区神楽坂6-42 オーシャンズ編集部「オトナ相談室係」まで。

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赤峰 幸生 (あかみね ゆきお)

● イタリア語で「出会い」の意のインコントロは、大手百貨店やセレクトショップ、海外テキスタイルメーカーなどの企業戦略やコンセプトワークのコンサルティングを行う。2007年秋冬からは『真のドレスを求めたい男たちへ』をテーマにした自作ブランド「Akamine Royal Line」の服作りを通じて質実のある真の男のダンディズムを追及。平行して、(財)ファッション人材育成機構設立メンバー、繊研新聞や朝日新聞などへの執筆活動も行う。国際的な感覚を持ちながら、日本のトラディショナルが分かるディレクター兼デザイナーとして世界を舞台に活躍。 Men’s Ex、OCEANSに連載。MONOCLE(www.monocle.com)、MONSIEUR(www.monsieur.fr)へも一部掲載中。

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