2014年05月24日(土)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 "素晴らしい日本の織物" 2014年5月24日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
「10年は着られる服」を求めて、地道な仕込みの旅が続いています。
遠州(静岡県西部)は伝統ある綿織物の産地。「クレアシオン」という機屋の先代社長とは45年前に知り合いました。見事なギンガムチェックのシャツ地を作り、「ミスター・ギンガム」と呼ばれた彼は、輸出にも積極的で、パリの名店「シャルベ」やロンドンの老舗にも卸していました。
「田中織物」は、英国の有名ブランドにトレンチコートの素材となる厚手の綿ギャバジンを供給していました。「72番」と呼ばれる特別な織物は、原綿の良さに確かな織りの技術が加わって生み出されます。ほかの綿素材でも、しとっとした風合いが、凡庸なものとは一線を画する質の高さを誇ります。
こうしたメーカーを訪ねて、「横糸をガンガン打ち込んで、一級の綿のスラックスは作れないか」と相談しています。私が14年間愛用しているものを見せ、ピシッとしたクリース(折り目)が今なお取れないことを話すと、「これは相当気合を入れないとできないわ」などと盛り上がります。
日本の織物は世界を見渡しても超一流のモノ作りを続けています。名だたる欧米ブランドがこぞって日本に素材を探しに来ていることを、一般の方はあまりご存じないのではないでしょうか。
さかのぼれば紡績業は日本の基幹産業として、近代化を支えてきました。トヨタやスズキといった世界に冠たる自動車メーカーの原点は、織機にあるのです。優れた織物に、消費者が目を向ける文化を育てていかなければなりません。日本人のファッションは、西洋崇拝が根強い。しかし、素晴らしい素材は足元にもあるのです。
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2014年05月10日(土)
朝日新聞be on Saturday 『赤峰幸生の男の流儀』 "綿の神に会う" 2014年5月10日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
素材作りの現場に入って、もっと理解を深めたい。1月、大阪府阪南市にある「大正紡績」を訪ねました。特に綿の原糸作りで名高い会社です。
応対してくださったのは、「綿の神様」と呼ばれる近藤健一さん。近藤さんは中国や南米ペルーなど、世界五大陸に綿の畑を作ってきました。特に、農薬を使わず、害虫に狙われやすいオーガニックコットンの栽培指導に定評があります。
近年、機能性を追った合繊ブームの一方で、自然素材が再評価されています。下着をはじめ、人の肌に近いところで用いられる綿は、なるべくナチュラルなものがいい。農薬は綿の自然な成長の妨げにもなり、時には組織を壊してしまいます。農薬をかけないで、人の手間をかけるのが、オーガニックコットンです。
こうして作られた綿糸で、「五大陸」ブランドのシャツを作りたいと思っています。糸を知り、そうした「知」も含めて深く織り込んでいく。デザインを追う「ファッション」ではありません。ファッションには「もっと先に走らなくては」という焦燥感がつきまといますが、そうではなく、立ち止まって考えて、不要なものには「要らない」と判断する。原子力発電と同じです。
農薬を使うより、手間がかかるのですから、お値段は高くなるかもしれません。でも、多くの人が長く大切に使える。周囲からは「よいものをお召しですね」と褒められ、着る人の品格が高まっていくようなもの作りの一翼を担いたい。
お土産に綿花の種を頂きました。アトリエの前にある畑に植え、綿花の成長過程を知り、うまく綿を紡ぐことができたら、ハンカチでも作りたいと思っています。
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2014年04月12日(土)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 「擦り切れたバブアー」 2014年4月12日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
「オイルドジャケット」という品物をご存じでしょうか。水をはじく合成繊維が登場する前に、コットンクロスにベタベタとオイルを塗りつけ、防水性能を上げて作られました。19世紀末に創業した英バブアー社のものが有名です。
もともとは貴族が狩猟を楽しむ際に羽織る「暇つぶしスタイル」。ですから、ロンドンのビンテージショップで年代物のバブアーを見つけると、獲物を入れた背中の大きなポケットには、動物の血が黒ずんで残っていたりします。
私がバブアーを買ったのは、23年前。商用で訪れたイタリア・ミラノのスポーツショップで気に入りました。紺色も緑色もありましたが、大好きな茶色を選択。私にハンティングの趣味はありませんので、ホテルの風呂場でお湯を使ってオイルを落としてしまいました。当時の新品は、オイルのにおいがとてもきつかったのです。
以来、毎朝の犬との散歩や、休日の散策に大活躍しています。草地で敷物代わりに尻の下に置いてしまうこともあり、あちこちが擦り切れていますが、それもまた味わい。スーツスタイルに羽織っても決まり、街の中でも十分に使えます。
このバブアーが最近、若者の間で再び人気になっているといいます。マッキントッシュのゴム引きコートも同様に、今となってはもっと軽くて便利なレインコートが登場しているのに、なぜ注目されるのでしょうか。
私は、スマホも電子レンジも押すだけで済む便利な世の中だからこそ、昔ながらの「ローテク」加減が受けているのだと思います。武骨で懐かしい感覚を呼び起こすものが、新しい。大きくデザインを変えずに作り続け、普遍性を獲得したバブアー社にも拍手です。
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2014年02月18日(火)
チェックの着こなし方 [朝日新聞掲載記事]
クラシックな英国スタイルが注目され、チェックや千鳥格子といった伝統的な柄が見直されています。ジャケットの服地にも柄物が増えてきました。
そのこと自体は結構なのですが、着こなす上では難しさがつきまとうことは押さえておきたいと思います。
まず色がやたらに多く、目立つチェックは普段使いには向いていません。「また同じジャケットを着ている」と見られてしまうからです。選ぶなら、遠目には無地に見えるような、控えめなものから入った方が活躍が期待できます。
そして、柄と柄の組み合わせはすべきでありません。上着がチェックならワイシャツは無地が基本で、ネクタイも控えめなものがマッチします。
ストライプのスーツにストライプのワイシャツを合わせている男性をよく見かけますが、成功例はまれ。ストライプがしゃれているからといって、その掛け合わせでおしゃれの度合いが増すわけではありません。引き算が大切です。もしトライするのなら、ワイシャツのストライプは無地に見えるような、ごく細かな柄を選ぶべきでしょう。
そして上着のチェック柄に含まれている色だけで、全身の色を統一することも大切です。グレー地に青色のチェックなら、使ってよいのは青と靴の色だけです。ポケットチーフも色をそろえ、派手なものは避けるべきでしょう。
ウインドーペーンという窓枠のような格子柄も増えていますが、格子の大きさと体つきのバランスはよく吟味した方が良いでしょう。
ここまでチェックのこなし方を解説してきましたが、「無地に勝る柄なし」という言葉もあります。流行に飛びつかないスタイルもまた粋ですね。
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2014年02月01日(土)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 「スロー」が生む価値 2014年2月1日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
クラシックを訪ねて三千里。去年、ロンドンから2時間ほど急行列車に揺られ、サマセットにある毛織物の名門「フォックスブラザーズ社」を訪ねました。辺りは広大な牧草地で、羊や牛が点在する風景の中に、紡績工場がありました。
1772年創業のフォックス社は、チャーチル元首相やチャールズ皇太子など、今も昔も英国紳士に一流の服地を提供してきました。特に表面を起毛させた仕上げのフランネルで、世界にその名を知られています。
数年前に経営を引き継いだダグラス・コルドーは、「スローこそが我が社の強みだ」と言います。45年前から使う旧式の織機は、ゆっくりと糸を打ち込んでいきます。そして、手持ちは柔らかいものの、しっかりとした芯が感じられる仕上がりの織物を生み出します。これはスピードが速いことを重視する最新式の機械では、実現が難しい味わいなのです。
もちろん、元経営コンサルタントであるダグラスは、顧客の要望に応じて、より軽さを感じる現代的な織物も作っています。生地の重さを変え、2500もの織り柄をもつ柔軟性やバランスこそが、今や従業員28人となった名門が生き残っていくすべなのでしょう。
工場のすぐ近くにあるショールームには、たいへん古い同社のバンチ(生地見本帳)も収められていました。歴史に敬意を払いながら前進する老舗の姿を垣間見ることができます。
スーツの裏地には服地メーカーのタグが縫い付けられていることがありますから、ぜひご注目を。フォックスなら、まずは基本のブレザーが最高です。投げ捨てられるファッションとは違う、次世代に受け継いでいける上着の良さを味わうことができます。
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