2006年11月24日(金)
OCEANS 1月号 連載#10 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の「粋がわかれば、すべてがわかる」
着こなしの基本はモノトーンでのハーモニー
千鳥格子のスリーピーススーツに合わせているシャツは白のツイルで、チーフは白のリネン。タイは黒もしくはシルバー系を合わせるのがスタンダードだが、それでは凡庸なので、赤峰さんは応用編として赤×黒のストライプタイを選択。靴は35年程前、ニューヨークで購入したフローシャイムの黒の内羽根ウィングチップ。カントリーテイストが持ち味である千鳥格子とウィングチップの相性は抜群。この着こなしにコートを羽織るのであれば、上襟がベルベットになっている黒のチェスターフィールドが第一候補になる。
ベストがあれば、ジャケットを脱いだ姿も粋でサマになる
後ろの尾錠はきつめに締めて、コルセットのように着るのが王道。背筋が伸びて、身も心も引き締まる心地。シャツの袖はまくった方がこなれて見える。
スリーピースの「粋」
年末年始に向けて、ドレスアップの機会が増えてくる。そこで今月はフォーマルな着こなしについて話をしようと思う。どんな着こなしでもT.P.O.を念頭に置くことは不可欠だが、フォーマルシーンではその意味合いがより濃くなる。もし、パーティーの招待状に(注1)ブラックタイ着用とのドレスコードが記されていたならば、すなわちタキシード着用を意味する。しかし、そのようにドレスコードが明確ではない場合には、ブラックスーツを選ぶことが一般的だろう。しかし、私はブラックスーツを好まない。日本では冠婚葬祭用との印象が強く、また没個性となりがちだからだ。ただし、これ見よがしに個性を主張することを勧めるつもりは毛頭ない。あくまで控えめに、場の雰囲気に自然に溶け込み、それでいてさり気なく個を醸し出せるような着こなしが望ましい。そういった目線でタキシードに続くセミフォーマルスタイルとなるのが、(注2)千鳥格子のスリーピーススーツである。着用しているのはフィレンツェのリベラーノ リベラーノのビスポーク。生地は英国の(注3)ウィリアム ハルステッドのクリアフィニッシュによる(注4)梳毛ウール。モノトーンで、細かな千鳥格子のため、派手にはならずにドレッシー。そしてスリーピーススーツは、やはり、ベストの存在感が大きい。タキシードでのカマーバンドに通じる役割を果たす。背中の尾錠はきつめに締め、コルセットのようなタイトなフィット感で着れば、背筋も自然と伸び、姿勢もよくなる。そしてベストはジャケットを脱いだときにも功を奏する。シャツは肌着の位置づけ。そのため、ジャケットを脱いでシャツ一枚となるのは、フォーマルシーンでは礼に反する。しかし、ベストがあればそのようなことはなく、シャツの袖をまくってもサマになり、粋であると思うのだ。
近頃はタキシードジャケットにデニムを合わせたようなフォーマルスタイルのドレスダウンがトレンドとなっているが、私にはどうにも軽薄に映る。やはり、大人の男はあくまでも筋を通した王道の着こなしが望ましい。それはフォーマルシーンであればなおさらのこと。千鳥格子のスリーピーススーツには貫禄が備わり、パーティで優雅に立ち振る舞うための好材料となる。
(注1) 「ブラックタイ」
黒のボウタイのことを指す。ゆえに、ボウタイを合わせるタキシード着用を意味する。ただのブラックタイを合わせて、常識が疑われることのないように。
(注2) 「千鳥格子」
チェックの一種であるハウンドトゥースの日本での呼称。ハウンドは猟犬、トゥースは歯の意。グレンチェックと並んで、カントリー的なテイストを持った英国的トラディショナルパターン。
(注3) 「ウィリアム ハルステッド」
英国を代表するファブリックメーカーのひとつ。
(注4) 「梳毛」
毛羽立ちの少ない、しなやかなウールのこと。対極となるのは紡毛。千鳥格子でも梳毛であればドレッシー。だが紡毛になればカントリー色が強くなり、フォーマルな印象は弱まる。
グレースケリーと共演した映画「上流社会」の一幕より。千鳥格子を着こなすフランク・シナトラが、粋とは何かを教えてくれるお手本的映画。赤峰氏は映画から多々、着こなしの着想を得るという。
1935年に撮影されたゲーリー・クーパーのポートレート。千鳥格子のピークドラペルのジャケットを粋に着こなしている。
カラーバーを使ったタイドアップも洒脱。
目標となる着こなし例のひとつ。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )