2013年06月25日(火)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 『白シャツを突き詰める』 2013年6月22日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
一般に、女性は世の中のしつらえがどう変わっていくのかに関心を持つ人が多いですね。流行に敏感です。一方、男はこだわって、「深掘り」が大好き。クルマや時計、ビンテージなどに強い興味を持つのはたいてい男性です。
日本には、「蝶矢シャツ」という明治創業のメーカーがあります。ここは、白のシャツをどこまで深掘りできるか、突き詰めてきました。
例えば、遠州(静岡)に残された明治の古い織り機を使って生地を作る。レトロな機械だからこそ、オートメーション化された新しい機械では不可能なことができます。縦糸の数を自由に変えられるのです。すると、生地のタッチを微細に調整することができます。古いので織る速度が遅く、大量生産はできませんが、優しい味わい。長く着た時の「くたりの良さ」が違います。
そうした生地を使い、現代的なカットでシャツを作って売り出したところ、東京の新丸ビル店やグランフロント大阪店では好調な売り上げを記録しているといいます。温故知新で成功した好例といえるでしょう。
高温多湿の日本の夏には、強く撚った糸で、ピケ織りのシャツを打ち出しています。ピケと呼ばれる畝織りは、生地と肌の接触する面積が小さく、通気性に優れていて、肌にべたつかない。イメージは、日本を代表する映画監督、小津安二郎が現場で愛用していた白いピケ織りの帽子だそうです。
ここまで来ると、物質的欲求を満たすというより心の満足。「日本の歴史を着ている」という矜持が、男性を満足させるのでしょう。
次回は、粋なシャツの着こなしについて、お伝えしたいと思います。
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※朝日新聞社に無断で転載することを禁止します。
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2013年06月11日(火)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 『雨に唄えば』 2013年6月8日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
1952年公開のアメリカ映画「雨に唄えば」はタイトル通り、雨の中でクラシックなタップを楽しげに踊る場面が印象的な名作です。雨の日は装いを決めるのに悩む人もいるかもしれませんが、私は「レインコートを楽しめる」と前向きにとらえています。
レインコートの素材としては、密で丈夫な綾織物であるギャバジンや、目の詰んだ平織りのポプリンが使われているものが挙げられます。しわしわ、くたくたになって味わいが出てくる物がいい。一方で、ポリエステルと綿の混紡素材で作られた、ペラペラのコートも気に入っています。ひらりと羽織れて軽く、洗濯機で洗えてしまう。
色はベージュが基本。カーキや紺を選ぶ人もいると思いますが、自然界にある色が、屋外ではなじみがよいと思います。
さて、問題は丈です。コートはやはり大きな分量で、人が着た時に「A」に見える「Aライン」の裾のフレア感こそが美しいと私は思います。実用の面からも、ひざまであって、雨風をしっかり防いだ方が合理的。日本に多いのですが、太ももまでの短い丈で、黒色というのはよくわかりません。
背丈が日本人と変わらないイタリアの男たちは、オーストリアのローデン地方に由来する「ローデンコート」を愛用しています。翻る裾こそがコートのカッコよさでしょう。
足元は、靴の上に履かせるゴム製の「オーバーシューズ」の利用も一手。アメリカ人によく見かけます。傘はかつては英国の「フォックス」に代表される高級品を使ったこともありますが、なくしてしまうこともあるので、安い物で構わないと思います。ただ、茶、紺、黒の無地をそろえ、服装と調和する色を使うと粋ですね!
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2013年05月27日(月)
朝日新聞be on Saturday " 赤峰幸生の男の流儀 『緩みがちな時代に』 2013年5月25日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
再び「クールビズ」の季節がやって来ました。提唱者である自民党政権に戻ったこの夏は、ますます服装の簡略化が進むのでしょうか? 地球環境を大切にするという理念はもっともなのですが、これ以上、日本の男たちはだらしなくなってはいけないと私は思っています。
日本人の価値観の軸には古来、「規律」があり、職場での服装には、規律を守る役割があります。まずは「タイドアップ」、これが基本のキです。
どこかで自分の気持ちを引き締める服装でなければ会う人の印象を損ねることもあり、ゆくゆくは自分の不利益につながるようにも思います。はやりの「加圧トレーニング」ではありませんが、自分に「圧」をかけなければ底なしに緩んでいってしまいませんか。
また、リラックスを求める風潮から、ニット(編み物)がブームになっていますが、これにも懐疑的な態度を失わないで頂きたい。ニットは確かに心地よいのですが、いずれ緩みます。伸びきった時に無様です。
張りのある織物で作られた布帛のシャツを大切にして頂きたい。春夏にこそ最高に気持ちがいい素材はたくさんあります。特に糸のヨリの強いポイル地や麻はイチ押しです。
昨年は「クールビズ商戦」で多くのアパレルが不振でした。多くの消費者が、「公の場」を考えた証でしょうか。スーツを着ない時代に向かっているからこそ、キリリと自分を引き締めていくのが粋ですね!
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2013年05月14日(火)
朝日新聞be on Saturday "『赤峰幸生の男の流儀 『流行の源流を訪ねて』 2013年5月11日(土)掲載" [朝日新聞掲載記事]
「ファッションの流行は、いったいどこから生まれてくるのか」と不思議に思ったことはありませんか? もちろん、各地のデザイナーが新しい服を作るわけですが、実は材料を調達する生地の展示会こそがトレンドの源流と言えるでしょう。
特に欧州では服地メーカーが潮流を踏まえて各自のコレクションを発表し、トレンドを支配しています。年に2回、パリ郊外で開かれる「プルミエール・ビジョン」は代表的な国際見本市。日本ではアパレル企業がメーカーに生地を特注することがありますが、海外ではメーカーが主導的立場のようです。
私のように、服を作って生きている者にとって、展示会は真剣勝負の場。パリでも朝は奮発してタクシーで会場入りし、車中では目を閉じて集中力を高めます。700社以上がブースを連ねる広い会場を歩き回って、次々に指で生地の感触を確かめていきます。はさみを持参して、「これは」と思う生地は分けてもらうようにしています。
ここのところ、服地の大潮流は「クラシック」です。目詰まり感のある、しっかりとした素材が重要視され、チェックや千鳥格子など、伝統的な柄が人気になっています。ただ、こうした伝統的なものをそのまま出すだけではなく、モダンなしつらえを各社が競います。
例えば重いツイードを軽く、春夏向けにもアレンジしてしまう。最近では「だまし絵」のような商品も目に付くようになりました。普通なら織りで表現する柄を、プリント加工にしてしまうのです。現代的な着心地と低価格を兼ね備えた素材です。
私が目指す「クラシックの追求」とは違う方向ですが、新しいものがなければファッションは面白くない。新発見が生地展を訪ねる楽しみでもあります。
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2013年04月30日(火)
朝日新聞be on Saturday “赤峰幸生の男の流儀” 『袖丈、それが問題だ』 2013年4月27日(土)掲載 [朝日新聞掲載記事]
相模原市の80代男性から、「ワイシャツの襟や袖はジャケットからどの程度見えているのが適当か」とご質問を頂きました。以前も簡単に触れましたが、重要なのでおさらいしておきましょう。
結論から申し上げれば、襟は1a、袖は直立して腕を下に伸ばした時に、2a見えるのが適当です。襟は自然にシャツが見えるので問題にならないのですが、問題は袖。ほとんどシャツが見えない人も多いようです。ジャケットの袖口を皮脂で汚さないためにも、本来はシャツが2a、上着の外に出ていなくてはいけません。
そのためには袖口のボタンを外した時に、袖の先端が拳に届いているぐらいの「かなり長い感じ」でちょうどよい。袖の生地には、腕を曲げる分の余裕を持たせているべきなのです。
しかし、市販のワイシャツは既定の袖丈が短く、首回りが39aであれば、袖丈は82〜83aのことがほとんど。本来ならば86a、個人的には88aある方がエレガントでドレッシーな印象になると思います。ワイシャツは個人で注文してもそれほど高額になりませんから、長めの袖の物を作ってもいいでしょう。
もちろんシャツだけでなく、ジャケットの寸法も重要で、必要であれば買う時に袖丈を短く直しておかなければいけません。シャツを着た状態で、合わせてみた方がいいでしょう。
今回ご質問をくださった方は「丸首のシャツやニットの上にジャケットを着ている男性を見かけるが、襟の汚れを気にするビンボー人にはヒヤヒヤのスタイル」とも書いてくださいました。おっしゃるとおり、赤峰流でも地肌とジャケットの接触は「なし」だと思います。
少なくとも首にアスコットタイやスカーフを巻くのが粋ですね!
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