2013年10月07日(月)
赤峰幸生の服育のすゝめ vol.11 [MEN'S EX 掲載記事]
服の原点・素材を見直す
ようやく暑さも和らいだ9月下旬、英国羊毛の産地スコットランドへ機屋(はたや)を巡る旅に出ました。アカミネロイヤルラインのオリジナル生地を注文するためです。
原料となる羊毛を選び、ブレンドを決めたら糸の番手を決定します。経糸(たていと)・緯糸(よこいと)の本数を検討して打ち込みを決め、仕上がりを待つ間にどんな目付けの生地が上がってくるか思いを馳せます。経験則を超える出来栄えのときもあれば、思ったように仕上がらないことも。しかし、これぞ服作りに携わる者の醍醐味。出来合いの生地を買い入れるだけでは、決して味わえない悦びがここにあります。
服を仕立てるだけでなく、素材作りから携われるのは服屋の特権。出来合いの定食メニューをただ食すのではなく、食材の仕入れから携わるシェフの悦びに通じるところがあるように思います。
グレーシャークスキンとネイビーバスケット
「真の洒落者は、流行に左右されない自分の定番≠持つべきである」と先月お話しいたしました。今月もその続きなのですが、今回は洋服そのものの話ではなく、その材料である素材について。ご紹介したいのは、グレーのシャークスキンとネイビーのバスケット生地です。
シャークスキンとは文字通り鮫肌のように鈍色の光沢を持つグレー生地です。私のシャークは、ドーメルのもので数年にわたり着込んだので光沢が落ち着き、とても良い風合いになってきました。欧米でグレーは、フォーマルな席でも着られる公共性が高い色とされます。グレーシャークはその風合いから、完全な無地よりも洒落た印象もあり、ビジネスから休日まで汎用性高く着られます。シャツ、タイ、靴の色も問わない懐深い生地です。
ネイビーバスケットにはスポーティな表面感があります。平日の出勤から休日まで出番が多々あり、仕立ててからもう15年ほどになるでしょうか。いまもくたらずしっかりとしたハリとコシがあるのは、目付け380g/uを超える打ち込みの良い英国生地だからでしょう。
服地は着込むほどに着る人を語ります
私にとってグレーシャークもネイビーバスケットも、間違いなく私の定番と呼ぶに相応しい。登場回数の多い、いつもお世話になっている服地。長期にわたり所有し着用頻度が高いことは、即ち愛すべきマスターピースということです。
私は洋服のブランドや些末なディテールなどは気に留めません。しかし、素材には並々ならぬこだわりがあります。耐用年数は?タイとシャツはどんな色が似あうだろうか?着回し力があるだろうか?10年後、生地が傷んだら、また同じ素材で作りたいと思うだろうか。
そんな条件をすべてクリアしてきたのが、先の2つの生地でした。時代を超える普遍性を持つ素材を着続けることで、やがて服がその人自身を語りだします。素材は単なる色柄ではありません。素材は、着る人のその人らしさ≠そのまま物語るものなのです。
今月の総括
自分の素材≠持つ。
それがその人の確固たるスタイルを確立してくれる。
Posted by インコントロ STAFF at 09時00分 コメント ( 0 )