2013年03月05日(火)
MEN'S EX 2013年4月号 赤峰幸生の『服育のすゝめ』 vol.4 [MEN'S EX 掲載記事]
季節の装いを知る その@
『春は花色を取り入れる』
これまで3回にわたって、映画に学ぶ紳士の服装術についてお話しさせていただきました。しかしひとつ言い忘れていたことがあります。スクリーンのなかの服装をただ真似るだけではいけません。服装はシーンに空気のように溶け込まなくてはいけないのです。名優たちは物語のなか、絵のように美しい立ち居振る舞いでいます。決して服だけ浮いてしまうことはありません。
お洒落な服装は、常に場の空気と一体でなくてはなりません。それは着ていく場所と同時に、四季折々との整合性も重要です。お洒落のポイントは自然と場の空気に溶け込む季節の色を纏うことなのです。冬の枯れ草にはツイードのジャケット。空のグレーにはフランネルのスーツ。秋の落ち葉の黄や紅の濃色は、ニットタイで取り入れるのがよいでしょう。夏の空、海の碧は鹿の子のポロシャツが似合います。枯れ木に緑が芽吹き、色とりどりの花が咲き乱れる季節には、華やかな赤のシルクタイ……。
ヨーロッパでも季節の花々の色を取れ入れる着こなしは伝統的に受け継がれています。なかでも紫から赤の花色は人気の高い色使いです。春はライラック、初夏はラベンダー、夏から秋へはアザミやヒースの色。華やかな赤色も季節によってトーンは様々。これを上手に着こなして取り入れることで、装いに季節を感じさせることができるのです。
春の時季、私ならこんな装いで……
私ならスーツはグレー味のあるブルーのモヘア。冬の灰色の空から、春の明るい青空へ移り変わる途中をイメージさせる色です。普通の青よりも、一段明るい色を選べば、より春らしさを表現できるでしょう。素材はドーメルの「トニック」。春とはいえ、最低目付け350g/u程度は欲しいところです。打込みがよくずっしりと量感ある素材は型崩れしにくく、スーツを長く愛するためには不可欠ですから。シャツはブロードより少し薄手のコットン。春の花、ライラックの薄いパープルに近いもの、タイとチーフはお気に入りのシャルベを。共にシルク地で、色はボルドーと中間的なパープルカラー。春の花々の赤がそのイメージです。スーツの大地に花を咲かせる。これぞ真の「旬」の色といえるでしょう。
真の意味での「旬」は毎年巡りくるものです
近頃は軽々しく流行を「旬」と呼ぶことが多くなったように思います。「旬」という言葉は本来、季節の食物に使うもの。毎年のようにやってくる普遍的なものです。しかし近年使われる洋服の「旬」とは、通り過ぎて行くだけの「流行」に過ぎません。流行りものは必ず廃れるというのに。私は「流行」ではなく「旬」を求めます。今春は豊富な色がトレンドだそうですが、私は常に季節の色を取り入れることで流行とは一線を引いています。「旬」という言葉をいま一度見直してこそ、普遍的な「洒落」に近づけるのです。
赤峰さんが色を着るのは「流行だから」ではなく、「季節」に合わせた着こなしをするため。ベースは海や空、大地の色。シャツタイやチーフ、小物などに動植物や花の色を差すことで、景色に溶けこむ装いを意識する。スーツ生地は軽量なものより、しっかり重さのあるものを選んで。これもまた流行に左右されない服装術だ。
Posted by インコントロ STAFF at 13時49分 コメント ( 0 )