AKAMINE BLOG

メンズファッションディレクター 赤峰 幸生のBLOGです。

2008年08月24日(日)

OCEANS 10月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]

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マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛・・・・・・などなど。
30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。
そんな皆さまの”駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆さまの質問にお答えするのは、”人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に救いの手を差し伸べてくれるハズ!
では皆さん、ご一緒に! 教えてっ、マエストロ!


今月のテーマ
“現代版・江戸しぐさ”

[今月の質問]
毎月楽しく「オトナ相談室」を妻と一緒に読んでおります。私は息子を持ち、仕事では教員として私立高校の教壇に立っています。ここ最近、若者の日本語離れが問題になっています。正しく美しい日本語の使い方や、「江戸しぐさ」について授業をすることも非常に多くなっています。現代をよりよく、豊かに生き抜くために、これらへの理解は欠かせないものになってきています。日本文化だけでなく海外の文化にも精通していらっしゃるマエストロに、それらを併せたような現代版の「江戸しぐさ」を何か教えていただけないでしょうか? (40歳・埼玉県在住・私立高勤務・O.Yさん)

Q.おっと、今月も壮大なテーマですよ。「現代版・江戸しぐさ」だそうです。日本語やその使い方の重要性を改めて知る。そんな気運も今、確かに高まっています。
 てめぇ!いい具合に始めやがるじゃねぇか。そうだ!その通りだ。最近、日本人は日本人のよさを失っている。大体、日本が素晴らしいと語るのは外国人であって、日本人であることは少ない。そればかりか、そこに気がつかない日本人が多すぎるのではないか。海外の文化に触れることで、初めて日本のよさを再認識するようになった経験はあるだろう。ご指摘のとおり、文化の根幹をなすものは「言葉」である。つまり、日本語を正しく使えなければ、その美しさなど到底理解できるはずがない。ましてや、日本文化を理解しようなど永劫叶わぬ。ただし、ここで言うそれは、文法的な意味だけに留まらない。忘れてはならないのは、日本語は、特有の“間(ま)”や“侘び寂び”といった「粋」を宿すものであることだ。それが、日本らしさ、つまり日本文化を理解するうえで極めて大切だ。
 例えば、私に会うなり、「いやぁ、暑いですねぇ」と話しかける輩が多い。私は思わず続ける言葉を失うね。「てめぇ、暑いから何だ、この野郎」と腹の中で思う。そうではなくて、「蝉の季節ですね」だとか、「緑が色濃く感じられる日ですね」といった言葉は出てはこないのか。そうすれば、「いやあ、そうだね」と話が続き、たとえ短い会話であろうと、それは心地よい会話となる。言葉使いとは、こういった日々の小さな積み重ねである。それが、結果的に相手を気持ちよくさせる、つまり、思いやることにもつながるのだ。

Q.なるほどっ!さすがはマエストロ!いつもいつも、ありがたいお言葉。お忙しいのに本当にありがとうございます!さすが、江戸っ子!粋ですねっ!
 馬鹿やろうっ!ふざけているのか!だが、間違ってはいない。私は江戸っ子だ。江戸っ子といえば、まず“べらんめえ調”の乱暴な言葉使いを連想するかもしれないが、実はそうではない。相手を慮る世辞が自然と使える、もしくはそんな振る舞いができることが大切だ。そして昨今、改めて見直されようとしているものが、「江戸しぐさ」である。最近では、小学校の授業にも使われることもあるようだ。江戸時代、かつて寺子屋では、大人が子供に話しかけ、子供が自分で考えて自分の言葉で話す訓練をしたそうである。そして、そこには身分や年齢といった概念はなく、対等の人間関係のみが存在した。例えば、部下に「おはようございます」と挨拶をされて、あなたは何と答えているだろうか?「おはよう」と偉ぶってはいないだろうか。私はどんな相手であろうと「おはようございます」と返す。そのほうが、部下も私も気持ちがいい。同格の言葉を返すことは、信頼関係を築くうえでも大切なのだ。さて、もうひとつ。お前が、先ほど使った「忙しい」という言葉。これを使われることを私は好まない。「赤峰さん、お忙しそうですね」と話されると、てめぇ、何だとこのやろう! 失礼な奴だ、と思う。まぁ、そう言葉にすることはないが、仕方なくそれを我慢したとして、そんな時はあえてこう言う。「かなり、暇なんです」。別に天の邪鬼をしているわけではない。「忙」という字は心を亡くすと書くだろう。つまり、相手に「忙しいですね」とは「心を亡くしていますね」と言っていることと同義であり、失礼を意味するのだ。少なくとも江戸商人においては、その言葉遣いは認められなかった。もし、忙しそうな相手に声をかけたりするときは「ご多用のところ」と言ったりするのが正しい。何でもメールで済まされる時代である。だからこそ、相手と直接交わす言葉では日本語のよさや意味を意識して、使うようにしてほしい。

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(→)マエストロは自他ともに認める無類の動物好き。この日は、公園でワンコとじゃれあう姿をパチリ。動物にも“思いやりの気持ち”をもって対等に語りかけるその姿は、微笑ましくもあり、氏の生きざまを映し出しているようでもありました。

Q.いやぁ〜深いですねぇ、日本語。なんだか身に染み入るお言葉です。お言葉にいつも含蓄があるのは、その言葉遣いのせいでもあったんですね。日本語の魅力をほかにも教えてっ!
 てめぇ、言いやがるじゃねぇか。オレを持ち上げてどうするつもりだ。日本語の魅力を教えてほしいのか。映画のタイトルにも使われた「武士の一分」という言葉がある。金や名誉を捨てたとて、これだけは譲れないという意志を持つことだ。つまり、プライドを保ち続ける、自分を自分が裏切らない、ということだ。生活のありとあらゆる場面で「武士の一分」があるか問われる。そのたびに私は自分を律するのである。しかし、世の中はどうだ?己の誇りはどこへ消えうせた?金や名誉のためなら何でもする輩が多すぎる。かつての武士は、生活が困窮して月代〜さかやき〜(=江戸時代には風俗にもなった成人男子の髪型)は伸び放題、着物はボロで、あちこちに借金をして、それでも武士は気位を失わなかったという。例えばあなたの会社が潰れて、名刺がなくなり、仕事を失ったときに、どれだけ誇りを保ち続けられるか。人間の強さは、丸裸にされたときに初めて試されるものだ。同じことをする必要はないが、その精神だけは、ぜひ覚えておきたいものだ。
 やせ我慢を意味することもあるが、私は「武士は食わねど高楊枝」という言葉も好ましく思う。なぜなら、それは自分を律することができているということだからだ。オフィス街に行くと、ジャケットを脱いで、半袖のシャツで、ネクタイは外し、スリッパを履いて街を歩いている輩に出くわす。クールビズのエコロジカルな精神に異を唱えはしないが、ネクタイを締めないビジネスマンは、刀を差さない武士と同じだ。兜の緒を締めるように、ネクタイを締めると気持ちが引き締まる。そして、これは装いにおける世界基準でもある。いかに暑かろうと「やせ我慢」をせよ。自分を律する心持ちはネクタイにも現れる。このように、日本語には、自分を律することに通じる振る舞いや気構えを示してくれる言葉がたくさんある。それこそが、大きな魅力だ。

Q.よっ!さすが平成の武士!マエストロは、ラストサムライですね!しかも、海外の文化にも精通していますしね。日本との違いってどうなんですか?
 私は江戸っ子だが、江戸かぶれをしているわけではない。イタリアやイギリスの文化に多く触れてきた。文化とはその国や土地による違いはあれ、海外には総じて日本人が学ぶべきことも数多い。ひとつ日常的なシーンでの例を挙げよう。日本の駅では「携帯電話をお切りください」とか、「白線よりお下がりください」とか、「間もなく出発です」とか、事細かに放送が流れる。これは、悪いことだとは言わない。だが、それが意味するのは、言わなければできないという、要は“子供扱い”されているということだ。ところが、イタリアではそういった類いの放送は一切、流れない。列車は定刻になれば、勝手に走り出す。日本に比べて、これは極めて“大人扱い”だと言える。また、イタリアの友人と電話で話すと最後に必ずと言ってよいほど「ご家族にもよろしく」と締めくくる。これは「あなたを取り巻く人が元気でいるか」という心配りの意味合いで、それは私に対する親愛の情からくる言葉だ。つまり、そんな日常のシーンからでさえも、イタリア文化、あるいはイタリア人の成熟度の高さを垣間見ることはできないか。一方、日本ではどうだろう。日本人には、悲しいかな、心のゆとりがまったくもって足りないのだ。もちろん、日本でも昔はそうした気配りがあった。しかし、そういった“心のゆとり”が失われてきている。心のゆとりとは、誰かを思う気持ちである。言葉やしぐさの本質は、まさにその心のゆとりにある。そして、そのゆとりが文化を形作っていくのだ。独り善がりな心からは、何も生まれることはない。


Q.言葉やしぐさの本質は相手を思う気持ち、ですか。ではなぜ、この日本からその気持ちが失われてきているのでしょうか?そして、今我々に必要なことは何か、教えてください!
 それは、おそらく日本人が生きていくうえで規範とすべき“道標”が形骸化してきているからだ。わかりやすく言えば、それがかつての「武士道」だ。英国をはじめとする欧州の国々には、ジェントルマンシップとしての「騎士道」が文化として息づいている。我々がすべきことは、まずこの日本から消えようとしている文化を継承していこうとする姿勢を持つことだ。「正しい日本語」の習得と理解、そして実践から始めよう。日本文化の深みを知ってこそ、海外へ目を向けることができる。かつての規範にすべてを求めることはできない。しかし、そこには現代にも通じる素晴らしい文化が凝縮されている。日本文化への造詣は、あなたの生き方にとって大きな示唆となるはずだ。文化の根幹を成す正しく美しい言葉やしぐさの本質は、誰かを思いやる気持ちにある。それをもう一度よく理解したうえで、海外でのよき規範あるいは文化を見渡せばよい。そうすれば、あなたの求める「現代版・江戸しぐさ」は自ずと身に付くはずである。

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−近ごろのマエストロ−
1年ほど前、ある英国ブランドから日本での展開にあたり、アドバイスを求められた。もちろん、時間を割いて耳を傾けた。そして、私なりに精一杯の助言はしたつもりである。しかし、それから音沙汰はなく、今秋から日本での展開を始めるのだと聞いた。「馬鹿やろう」である。アドバイスを求めていながら、まったく仁義に欠ける。私は金銭的なことなどではなく、その気持ちのつながりを欠いた行為に強い憤りを覚える。この社会とは、人と人のつながり、つまり心と心のつながりで成立しているものなのだ。

■みなさんからの質問待ってます!
仕事から家庭、恋愛、そしてファッションetc.・・・・・・、日ごろ読者の皆さんが抱える悩み、疑問など、相談したいことを何でも教えてください。マエストロ赤峰がズバッと解決いたします!インターネットの場合は[ www.oceans-ilm.com ]へアクセスのうえ、「NEWS」から投稿してください。郵送の場合はハガキに @相談したいこと A氏名(ふりがな) B住所 C年齢 D職業 E電話番号 Fメールアドレス G「オトナ相談室」への感想 を明記し、〒162-0825東京都新宿区神楽坂6-42 オーシャンズ編集部「オトナ相談室」係まで。

Posted by インコントロ STAFF at 00時00分   コメント ( 0 )

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朝日新聞be on Saturday『赤峰幸生の男の流儀‘「男の三原色」について’』2012年5月26日(土)掲載

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