2006年07月06日(木)
MEN'S EX 8月号 菊池武夫と赤峰幸生の Be Buffalo Forever! vol.3 [MEN'S EX 掲載記事]
菊池武夫さんと赤峰幸生さん。
ファッション界の2人の巨匠が毎回テーマをひとつ決め、それに基づいてファッションを披露し語り合う、夢の対談連載。
「今月のテーマ」
ジーンズで築くカジュアルスタイル
カジュアルなスタイルを築くうえで、真っ先に思い浮かぶアイテムといえば、ジーンズ。
永遠のマストアイテムともいえるジーンズの2人の選択基準とは?2人のジーンズのルーツとは?
そして、今日のスタイルに至った経緯を語ってもらいました。
■映画から着こなしを無意識のうちに学んできた
赤峰 先生がジーンズを穿かれるようになったのはいつ頃からですか?
菊池 小学生。戦争が終わってすぐですね。アメリカの将校がウチに1年半くらい住んでたんですよ。そのときレコードとか雑誌とか洋服とか、当時まだ貴重だったものがたくさんあって、それでジーンズを穿いていたんです。多分リーバイスだったと思うんですけど、当時は小さかったですから、さすがにブランドまでは覚えてないな。
赤峰 その頃はまだ誰もジーンズなんて穿いてないですから、相当早いですよね。僕がジーンズを穿きだしたのは、中学2年生くらいです。生まれが学芸大学だったでしょう。渋谷の恋文横丁にサカエヤっていう古着屋があって、そこにはよく行きました。リーバイスは高校に入ってからで、高校ぞ代はもうずっとリーバイス。ただ、不思議とアメ横には行きませんでしたね。
菊池 僕はアメ横でした。アメ横で新品買って、風呂の中で洗えっていわれていたから、穿いたまま入ってタワシでこすったりして(笑)。そういうことはしましたね。でも、このときもブランドは見なかったな。やっぱりリーバイスだったのかな?
赤峰 ほとんどリーバイスで、それかリー。どっちかですよね。ラングラーはもっとずっとあとですから。
菊池 だいぶあとですよね。
赤峰 '60年代に入ってからですよね。ジーンズというアイテム自体が、カウボーイのワークウェアみたいなものですから。その機能性っていうのは世界万人に共通ですよね。一番の思い出は、高校生の頃、今の国立競技場のところにアメリカンハイツっていうのがあって、当時そこの将校の娘さんと付き合ってたんですけど、彼女がPXで色々と買ってきてくれるんです。それが嬉しくてね(笑)。
菊池 ところで赤峰さんが若かった頃に参考にした人っているんですか?
赤峰 (注1)スティーブ・マックイーンの若い頃とか、意識まではしてないけど、カッコいいなってのはありました。砂埃がついているようなジーンズのカッコよさみたいな。あとは「パパ大好き」って映画に出ていたフレッド・マクマレイって役者がいたんですけど、彼なんかジーンズとかチノパン穿いていて、それもカッコよかったなぁ。
菊池 僕の場合は(注2)ジョン・ウェインの出世作の「駅馬車」ですね。あれは確かリーバイスでしたよね。彼はキチッと穿いていてダラーンとしてないんです。それが妙に印象的でした。
赤峰 そういえば、マックイーンはリーでした。ピケのジーンズとか。結構股上が深くてね。ケツの格好がよくないと、リーってこなせないですよね。
菊池 でも、リーのうほうが脚はきれいに見えますよね。ピーンとしてるっていうのかな。カウボーイっていうかウエスタン映画の影響って結構受けたかもしれない。
赤峰 それはかなりありましたね。
菊池 (注3)ジョエル・マクリーだとか(注4)ヘンリー・フォンダとかね。3つ上の兄貴がいるんですけど、彼はカウボーイの格好が好きで、自分で作ってましたよ。その影響もあったんだろうな。
赤峰 僕も同じように小学校のランドセルでホルスター作っちゃって。オフクロにえらく怒られたなぁ(笑)。アメ横でピースメーカーを買ってきて、ジーンズに挿して遊んでましたね。西部劇ごっこの時代でしたから。
■ジーンズは前でなく後ろこそが勝負
赤峰 アンソニー・パーキンスの「のっぽ物語」っていうのがあって、シルエットのきれいさとか、雰囲気がありましたよね。昔は洗いのジーンズっていうのはなくて、インディゴの落ちてない濃いのが普通でしたから。'70年代になってようやく色落ちしたのが出てきたんです。
菊池 あと、(注5)マーロン・ブランドの「乱暴者」ってあるでしょう。あのときの彼はこんなにロールアップしていて、「駅馬車」のジョン・ウェインもロールアップしていましたね。僕もいつもロールアップしてるんですけど、きっとそこからの影響なんでしょうね。映画からの影響は確かにあります。
赤峰 '50年代、'60年代、'70年代ってのは男の服の黄金期みたいなところがあって、そこには原点があるんですよね。それを超える時代を感じられないんですよね。音楽も映画もそうだし、ファッションもそうだけど、今のは辿っていくと、結局は焼き直しなんです。
菊池 我々くらいの年代だと、ほとんどのものをリアルタイムで通ってますよね。実は、'70年のアタマに世界を回ったんです。出ていったときはデニムの細いパンツだったんですけど、帰ってきたときはベルボトムが世界を席巻していましてね。ショックを受けましたね。当時ビギを始めたばかりで、日本に帰ってからすぐに作りましたよ。
赤峰 リアルタイムの時代ってモノがあまりなかったじゃないですか。だから手に入れたらモノの匂いまで嗅ぐっていうか、そういうところからもカルチャーショックを受けていたんですよね。ところで、ジーンズのブランドもここ10年くらいで一気に増えましたよね。
菊池 そうそう。だいぶ前ですけど、アムステルダムに行ったときに、はじめてGスターを見たんですよ。そこの店員がもの凄くカッコよかったんです。そのとき初めてリーバイス以外にも凄くカッコいいのがあるなって。そこからGスターを好きになってしまったんですよ。今でも新しいブランドを見つけると興奮しちゃうんですよね。リーバイスがレッドを始めたときも、もの凄く影響を受けました。
赤峰 僕もブルー以外のジーンズはいろいろと穿きますよ。でもブルージーンズはリーバイスのヴィンテージしか穿かないんです。ニューヨークとか行ってもサウスブロンクスとかヤバイところまで足を運んで、その大木があるんじゃないかって探して、そこからさらに上を辿ってこれ以上ないところまで探しますから。
菊池 赤峰さんのそのパワーは本当に凄いですよね。
赤峰 今、リーバイスは9本持ってるけど、どれ穿いてくるか迷ったんですよ。でもどれを選んでもあんまり変わらないから、いいかって(笑)。
菊池 本当、対照的ですよね。
赤峰 根っこは同じなんですけどね。
菊池 そうそう、生地なんかでも根っこは本当同じ(笑)。
赤峰 若い頃に触発されたものはほとんど同じですから。お互いにメジャーに対するアンチテーゼみたいなものをもっていますよね。意識としては新しいメジャーを作りたいっていうのがあって、でもそれが出来上がっちゃうと飽きちゃうんです。で、次のマイナーを探してメジャーを作りたいっていうのがありますよね。
菊池 まさにそのとおり!それは絶対にあります。
赤峰 ところで、菊池先生は普段からジーンズを穿かれることが多いんですか?
菊池 僕はほとんど毎日スニーカー履いてますから、いつもジーンズです。なかでもダボッとしたのが好きなんです。若い人って腰穿きしているでしょう。あれ、僕もついついやっちゃうんです。同じ年代でも対照的ですよね。
赤峰 僕の場合、ジーンズを穿くときは膝の裏のシワを絶対にプレスしてシワを出さないようにしています。ジーンズはバックサイドが命ですから。黒人とかケツがピーンと張っていて、カッコイイですものね。
菊池 僕も選ぶ際は、後ろだけをチェックします。前より絶対後ろ。
赤峰 あと、上はドレッシーなものを着るっていうコントラストのほうが多いかもしれません。素材感の違うものを合わせるのが好きなんです。ジーンズにダンガリーのシャツとかは絶対に合わせません。やっぱりジーンズにには白シャツが似合うと思うんです。アメリカだとブルーにピンクとかマドラスチェックを合わせたりしますけど、ジーンズのときはやっぱり白なんです。
菊池 僕もそれは同感だな。
(注1) 「スティーブ・マックイーン」
1932〜1980年。アメリカンカジュアルの着こなしの教科書的存在。映画「大脱走」や「ブリット」が代表作。
(注2) 「ジョン・ウェイン」
1907〜1979年。“デューク”の愛称で親しまれた名優。戦争映画や西武劇に出演し、映画「駅馬車」が有名。
(注3) 「ジョエル・マクリー」
1905〜1990年。多くの西部劇に出演した。なかでも「昼下りの決斗」での“いぶし銀”な名演技で知られる。
(注4) 「ヘンリー・フォンダ」
1905〜1982年。ジェーン、ピーター・フォンダの父。'81年の「黄昏」でアカデミー主演男優賞を受賞。
(注5) 「マーロン・ブランド」
1924〜2004年。映画「乱暴者」で反抗的な若者を演じて人気に。「波止場」、「ゴッドファーザー」が有名。
■(写真右)菊池武夫氏
・目黒川沿いの帽子屋ライディングハイで購入したキャスケット
・ジレッリ ブルーニの鹿の子素材シャツ
・伊のシューズブランドMOMAのシアサッカージャケット
・Gスターのジーンズ
・ベルリンで購入したアディダスのスーパースター
■(写真左)赤峰幸生氏
・リヴェラーノ&リヴェラーノでス・ミズーラしたリネンシャツ
・10年前にミラノのクランで購入した同店のオリジナルベルト
・'60年代前半製のヴィンテージのリーバイス501XX
・リヴェラーノ&リヴェラーノでス・ミズーラしたウールパンツ
・8年前に購入したコンバースのオールスター
お2人が大好きだという山の上ホテルのバー「ノンノン」にて。
お互いジーンズ歴はかなり長いため、対談はいつになくヒートアップ。知らない話がたくさん出てきて、周りの撮影スタッフも感心しきりでした。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )