2006年05月24日(水)
OCEANS 7月号 連載#4 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
英国素材の「粋」
洋服の良し悪しを決めるのは、まず素材である。だから、私がデザインするY.アカミネは素材ありき。よい素材を求めて世界中を巡る。その経験からして、英国素材は特別だ。今回は英国毛製品輸出教会の理事長であるピーター・アクロイド氏を招き、英国素材について語らうことにした。
赤峰 ずばり英国素材のよさとは?
アクロイド ファッションには変えるべきものと、変えてはいけないものがあります。英国の素材は1世紀以上、変えなかったよさがあるのです。一言で言えば、積み重ねられた伝統。ここ30年間、他の国の素材を求められもしました。しかし、今では英国らしい素材が望まれています。
赤峰 具体的におすすめの素材は?
アクロイド 話題に挙がることが多い素材は(注1)エスコリアルです。私が着ているネイビースーツは、(注2)テイラー&ロッジ社が取り扱うエスコリアル素材で仕立てました。(注3)英国素材は重いという印象があるでしょう。しかし、エスコリアルは軽く、柔らかで、伸縮性が高く、すばらしい着心地をもたらす素材です。
赤峰 英国人が考える、粋な着こなし、また理想像とは?
アクロイド ずばり、「アンダーステイティッド」、つまりこれ見よがしでない見よがし方な装いでしょう。控えめで、周りの人への礼儀、敬意を重んじた着こなし。そのお手本は内面的な品性がにじみ出ているチャールズ皇太子です。我々、英国人は恵まれている。なぜなら服装に関心の高い王室が英国にあるから。(注4)サヴィルロウは、ロイヤルパレスからほど近く、ロイヤルワラント(王室御用達)を戴き、保護され、発展してきたのです。最近では(注5)オズワルドやリチャードら新鋭も参入し、活性化してきました。とはいえ、素材もそうであるように、英国のクロージングにこそ本質があり、また、その本質は変わりません。
赤峰 英国素材に触れることは、素材にこだわることがクロージングの第一主義であることを教えてくれる。これからは、英国をお手本のひとつとしながら、日本人のスタンダードを構築することが課題であろう。
(注1) 「エスコリアル」
限られた地域の小さな羊の群れから生産される、希少性のある原毛。年間の生産量も限られているため、高級素材として取り扱われる。「軽さ」「柔らかさ」「伸縮性」がその特徴。
(注2) 「テイラー&ロッジ社」
英国の毛織産地、ハダースフィールドにあるメーカー。120年以上の歴史を持つ名門。
(注3) 「英国素材は重い」
打込がよく、ドライタッチで、ヘビーウェイトなのが英国素材の特徴。エスコリアル素材とは対極的。
(注4) 「サヴィルロウ」
言わずと知れたスーツの聖地。古くからテーラーが集う通りである。王室御用達の店も多い。
(注5) 「オズワルドやリチャード」
英国のデザイナーであるオズワルド・ボーテング、リチャード・ジェームスのこと。他にも新鋭がサヴィルロウに出店し、ニューブリティッシュとして話題を呼んでいる。
写真左が英国毛製品輸出教会の理事長であるピーター・アクロイド氏。英国素材の歴史、そしてトレンドを熟知するキーパーソン。
アカデミー賞脚本賞を獲得した、ロバート・アルトマン監督作「ゴスフォードパーク」。英国上流階級が描かれ、登場する人物たちの装いはクラシカルでエレガント。まさに、アンダーステイティッドな装いの参考となる映画。
左がウィリアム ハルステッド、
下がリード&テイラーのエスコリアルのバンチ。
両メーカーは英国を基盤とするエスコリアルギルドのメンバー。
取材時にアクロイド氏が着用していたジャケット。素材はテイラー&ロッジ社製のエスコリアル。シワになりにくく、かつ、復元力に優れるので出張にもってこいだとのこと。
エスコリアルの原毛はニュージーランド、オーストラリアのタスマニア島、ビクトリア州で飼育される羊から生産。生産量が極めて少なく、限られたメーカーのみに供給される。軽く、ソフトで、ナチュラルな伸縮性がその特徴。
品がよくて控えめ、アンダーステイティッドな装いを実践
赤峰氏、アクロイド氏ともに他者への礼儀や敬意を払う控えめな着こなし。アクロイド氏は来日に際し、着用しているネイビーのスーツの他に、ブラキッシュネイビー(黒に近いネイビー)のスーツを持ってきているそうだ。「ワードローブから選び抜かれた少ないアイテムで、いかにうまく着回すか。旅もまた、お洒落のレベルアップには欠かせない」とは赤峰氏の弁。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )