2013年02月05日(火)
MEN'S EX 2013年3月号 赤峰幸生の「服育のすゝめ」vol.3 [MEN'S EX 掲載記事]
名作映画に学ぶ服装術 その3
『カサブランカ』&『いぬ』
幼少の頃から外国映画が好きで、パンフレットなどを切り抜いてはスクラップしていました。それは今も私のオフィスにあり、貴重なアイデアソースとなっています。昔の名優たちの着こなしには、学ぶべきところがとても多いのです。
なかでも出色はトレンチコートの着こなしです。最近はラペルが太く雄々しいダブルブレストのスーツやジャケットの流行もあり、再びトレンチコートなみ耳目が集まっていますが、これほどまでに男らしい服はありません。軍服出自の武骨さが魅力で、新品ではなく着込んで生地がよれ、皺っぽくなったぐらいが恰好よい。トレンチコートはアウターの基本であり、男が憧れる“男”のアイコンだと言っても過言ではありません。
『カサブランカ』に見るトレンチ着こなしの機微
トレンチコートが似合う名優といえばなんといっても『カサブランカ』のハンフリー・ボガードが筆頭に挙がります。昔の女の亭主に嫉妬しながらも気障な台詞を吐き、ラストシーンでは潔く身を引く男のダンディズムと、ボギーのトレンチコート姿は今も目に焼きついて離れません。
トレンチコートはベージュのギャバジンもしくはツイル。合わせるスーツはグレイフランネルもしくはサキソニー、春夏ならウェイトのあるモヘアなど、生地に存在感があるものがよいでしょう。ボタンを閉じてもたっぷりと余裕のあるコートの身頃は、腰回りにギャザーが寄るほどウエストベルトで絞り上げるのが粋な着こなしのポイントです。袖のベルトも同様に忘れてはいけません。一般的なコートにはストールなどの巻物がセットなのですが、トレンチには不要。それからもうひとつ、非常に重要なのが襟の表情です。むやみに立てればいいというわけではありません。装うシーンを考えて、ドレッシーに着るときは襟を立てず、小雨や風の中を歩くとき、さりげなく、自然に立てる。これぞ王道であり正統派の、男のトレンチコート姿なのです。
もうひとりトレンチコートの着こなしのお手本として、1962年のフランス映画『いぬ』から、ジャン=ポール・ベルモンドを挙げておきます。こちらはふんわりと甘さのあるフレンチシックなトレンチコート姿。ブリティッシュスタイルのボギーとはひと味違った着こなしですが、どちらも粋にトレンチコートを着ているという点に於いては同様なのです。これほどまでに着る人によって表情を変えるのは、トレンチコートならではの魅力といえるのではないでしょうか。
初めてのトレンチコートは家に帰って、すぐ・・・
そういえば私の初めてのトレンチコートは、21歳のとき日本橋丸善で購入したバーバリーでした。家に帰ると、買ってきたばかりのトレンチコートを風呂目の湯に浸け込んだのです。今でいう洗い加工ですね。トレンチは皺っぽいほうが恰好いいと、映画で学んだものですから。
『カサブランカ』
1942年マイケル・カーティス監督作品。トレンチコート姿のボギーが空港でイルザたちを見送るラストは、ボギーとイルザの2人が脱出するバージョンも撮影されていた。もし後者で公開されていたら、ここまで名作と呼ばれなかったともいわれる。
『いぬ』
1962年ピエール・ルズー監督作品。モーリスは親友シリアンと“仕事”を計画するが、あえなく警察の御用に。モーリスはシリアンが密告したと勘ぐるが、密告者はモーリスの情婦だった。
Posted by インコントロ STAFF at 15時23分 コメント ( 0 )