2007年06月06日(水)
MEN'S EX 7月号 菊池武夫と赤峰幸生の Be Buffalo Forever! vol.14 [MEN'S EX 掲載記事]
菊池武夫さんと赤峰幸生さん。
ファッション界の2人の巨匠が毎回テーマを決め、それに基づいてお互いのファッションを披露し語り合う、夢の対談連載。
「今月のテーマ」
コットンパンツを上品に穿く方法
コットンパンツといえば、休日には欠かせない定番アイテム。ただ、上品に穿きこなすのが難しいという悩みもよく聞きます。そんなわけで今回は、コットンパンツの上品な穿き方と着こなしをテーマに、大いに語り合ってもらいました。
■(写真右)赤峰幸生氏
・シャルベのシルクチーフ
・リガッディのコットンツイル地シャツ
・リヴェラーノ&リヴェラーノでビスポークしたリネンヘリンボーンのジャケット
・リヴェラーノ&リヴェラーノのコットンツイル地パンツ
・ストール・マテラッシのスエードスリッポン
■(写真左)菊池武夫氏
・プラダのサングラス
・眼鏡研究社のメガネ
・フェイヴァーブルックのドクロ柄シルクストール
・40カラッツ&525の2006年秋冬のシャツ
・ジル・ロジェのハウンドトゥースチェックのコットンパンツ
・レ ユッカスのスエードシューズ
お2人曰く「ほら、『安かったから捨ててもいいよ』って言う人がいるけど、あれは凄くイヤだよね。そういう考え方でいると、今に自分が捨てられてしまう」。
洋服に対する深い愛情が窺えるとともに、人生訓としても有用なお話でした。
■「カジュアル=なんでもあり」ではスタイルにならない
赤峰 今回は正直いって迷いましたね。ひと言でコットンパンツといっても、やっぱりイメージするスタイルによって着こなし方がだいぶ違ってきますから。
菊池 ドレスでも、カジュアルでも、コットンパンツというのはとにかく幅がありますよね。
赤峰 (注1)アンソニー・パーキンスあたりが穿いているような、ポリエステル混のいわゆるアメリカ的なコットンパンツもあれば、一方でイタリア的とでもいうのか、クリースをしっかり入れた、ドレスパンツとしての穿き方もある。さらにフランス的なイメージだと、時代によっても異なりますが、今日の菊池先生のスタイルのように、クリースを入れずにソフトな感じで穿くスタイルもあります。どれをイメージするかで穿き方が全く違ってくるから、結構迷いました。
菊池 凄くよくわかるなぁ。なかでも僕の場合、コットンパンツといえばやっぱりアメリカの印象が一番強くてヨーロッパのイメージはあんまりないですね。もちろん夏になればヨーロッパでも当たり前のように穿いていますけど、ハッキリとしたイメージがあんまりないんです。ただ、キレイに穿くという点では、間違いなくヨーロッパでしょう。
赤峰 だと思います。そもそもコットンパンツ自体が、PX(アメリカ軍隊内の売店)から流れてきたモノだったりしたので、まさしくチョコレートやバナナと一緒にコットンパンツがやって来たというイメージがありますね。
菊池 僕はその時代をダイレクトで知っていますよ(笑)。チノパンに軍モノの革のブルゾンを合わせた、要するに空軍のスタイルみたいな感じでね。
赤峰 あの時代のモノで、例えばヘインズのTシャツのように、今でもまだ売られているロングセラーのアイテムがありますが、やっぱりそういったモノは、アメリカの文化に根ざした、いうなればアメリカの良心的な中産階級の日常着という感じがあって、(注2)フレッド・マクマレイが「パパ大好き」の中で穿いているようなコットンパンツとか、僕自身は妙に憧れましたよ。
菊池 僕は、'50年代に写したと思われる、(注3)ジョン・F・ケネディが海辺で家族と遊んでいる写真が凄く印象に残っています。モノクロだから色は正確にわからないのですが、恐らくベージュのコットンパンツだと思います。洗いざらしを穿いて、上は白のポロシャツを着ている姿がよかった。でも、僕の自身としてはカッチリするよりも着崩すほうが好きだから、カーゴパンツのようなラフな感じに惹かれます。まぁ、そればっかりでは面白くないかなと思って、今回は少しドレッシーに振ってみたわけですが(笑)。
赤峰 実にカッコイイですよ。サスガです。だけど、先生の場合、どんなに着崩したとしても、上品さが損なわれることはないですよね。その理由はやっぱりサイジング。ワタリの幅とか、着丈とか、服には必ずバランスというものがあって、そこをキチッとわかっていらっしゃるからです。休日だからなんでもありではないんです。穿き方によってはクリースを入れることもそうですし、それこそジーンズであっても気を使う人はシワを気にして膝を折らないですよね。
菊池 そうそう。膝の裏のシワって凄く気になるんですよ。
赤峰 それがスリムなジーンズだったらなおさら。後ろ姿の見え方にも気を使わないと本当の意味でカッコいいとはいえません。
菊池 けれど、今の人ってほとんど気にしてないですよね。
赤峰 「カジュアル=なんでもあり」だと思ってしまうからでしょう。それだとスタイルにならないんですけどね。
菊池 上品に着ることや、カッコよく着ることというのは、アイテム云々の問題ではなくて、そうした意識のあり方だけでも随分と違ってくるのに。
赤峰 まったくそのとおりですよ。
■オシャレって面倒くさいし、難しいものなんですよ(笑)
M.E. 今回お2人ともスエードの靴を合わせられていますが、何か意図されることがあったのでしょうか。
赤峰 スエードって秋冬のイメージがありますが、僕はこの時期のほうが気分的に履きたくなるんですよ。
菊池 同感です。個人的に凄く印象に残っているのは、(注4)クルト・ユルゲンスという俳優が出演していた「眼には眼を」という映画。彼は医者の役で、ある出来事をきっかけにひとりの男から逆恨みされ、結果的に砂漠に誘い出されるかたちとなって、スーツ姿のままウロウロと歩き回るんですけど、その足元が確かスエードの靴でした。そのとき、「あっ、真夏にスエードの靴ってカッコイイな」って。
赤峰 バックスキンの、特にこの色ってわりに明るい空のブルーとか、そういった色調子と相性がいいですよね。で、僕の場合は、靴も含めた全体のバランスを考えて色のグラデーションを意識しましたね。
菊池 全体のハーモニーがキレイに出ていますよ。
赤峰 ありがとうございます。コントラストというと聞こえはいいんだけど、要するに色の組み合わせが合っていない人は結構多い。無彩色、プラスどの色を軸色で合わせるのか。それによって、靴やベルト、シャツやジャケットなんかも合わせていって、色のバランスを取るとキレイに見えますよね。
M.E. あと、裾の処理についてもお伺いしたいのですが、お2人ともダブルにされていますよね。やっぱりコットンパンツを上品に穿きこなそうと思ったら、裾をたたくのはNGですか。
赤峰 アメリカっぽく着たいんだったら、たたくのもありだと思います。
菊池 僕はミリタリー風に穿くときはたたいてますね。ただ、普通にシングルで仕上げることはあんまりないかな。シングルはどうしてもドレスアップした感じがあるので、そういった意図でコットンパンツを穿くんだったら、ありでしょうけど。
赤峰 ただ、レングスはウールのスラックスよりは短いかなという程度がちょうどいい。それより長くすると何か汚い感じがしますよね。
菊池 本当にそう。要するに、先程もいいましたけど、すべては意識の問題なんですよ。出掛ける前には必ず霧を吹いてシワを伸ばすとか、そういった心掛けやこだわりがあれば、自ずと上品な穿きこなしができるはず。
赤峰 ごもっともです。膝の裏にシワが入った状態で出掛けるというのは、僕には考えられません。
菊池 一緒です。実際に動いたことでシワが出たりすることは一向に構わないんですが、その状態のままで出掛けることは絶対にあり得ません。
赤峰 膝のあたりがずいぶんと伸びてしまったジーンズでも、いざ穿くときは、その部分をアイロンで追い込んでキレイにプレスを掛けないと気が済まないですよね。
菊池 とにかくコットンだからといって、あんまり粗雑に扱わないことです。お洒落というのは凄く繊細だと思うんです。ドレスアップをしたときも、コットンパンツを穿くときも、お洒落をするという意識において違いはないわけで、だからこそ気を使わなければなりません。クリースを付けるのか付けないのか、裾をたたくのかダブルにするのか。その一つひとつに意味があるとすれば、結果として合わせ方も変わってきますよね。そういう意味で、お洒落って面倒くさいし、難しいものなんですよ(笑)。
赤峰 さらにいうなら、保管の仕方もそうです。クリースの向きにも気を配ったうえで、ウールのパンツと同じようにキチッと保管するべきです。それと、値段が安いからといって何本も買ってしまっては結局のところ安物買いの銭失いになってしまって元も子もありません。そうならないためにも、ちゃんとしたモノを手に入れて、しっかりと大切に穿いていくことが大切。そうした態度が、ひいては上品な着こなしにつながってくるわけですから。
(注1) 「アンソニー・パーキンス」
1932年米国生まれ。'56年に「友情ある説得」で本格的にスクリーンデビューを果たし、'60年には傑作「サイコ」のノーマン・ベイツ役で一躍有名に。'92年エイズで死去。
(注2) 「フレッド・マクマレイ」
1908年米国生まれ。「アパートの鍵貸します」でジャック・レモン演じる主人公の上役を演じたあの人。主な代表作に「深夜の告白」「ケイン号の叛乱」などがある。'91年死去。
(注3) 「ジョン・F・ケネディ」
1917年米国生まれ。'60年、大統領選挙に立候補し、勝利。43歳という史上最年少の若さで第35代大統領に就任した。'63年、遊説中にダラスで暗殺。その死の真相はいまだ謎。
(注4) 「クルト・ユルゲンス」
1915年ドイツ生まれ。'55年に「悪の決算」でヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞。「史上最大の作戦」のブルメントリット少将など、ナチの上官役を多く演じた。'82年死去。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )